表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
秘封俱楽部活動記録 ~Last Occultician~  作者: 伽藍堂本舗
第一章『時代遅れの異世界転移』
7/53

退学勧告

 「ストーカーでも始めた?」




 菫子はぬえを睨みつける。ぬえは肩をすくめ、菫子を睨み返す。睨み合う二人。




 「とりあえず、どいてくれない?」


 「嫌って言ったら?」




 無言で薄紫のオーラを発する菫子。それに対してぬえはトライデントを構える。




 「何? 私とやり合おうっての?」




 一触即発の空気が流れる。固唾を飲んで見守るギャラリー。そんな空気に耐えかねた麟が声を上げる。




 「二人とも落ち着いてください!」




 ぬえと菫子の間に割って入る麟。だが、ぬえは割って入った麟を容赦なく突き飛ばす。




 「魔導も使えないやつが私の邪魔をしないでくれる?」




 倒れた麟に向かってそう冷淡に吐き捨てるぬえ。次の瞬間、視界からぬえの姿が掻き消える。それと同時に異様な音が辺りに響く。立ち上がった麟は音の聞こえた方を見る。壁に激突し、動かないぬえ。麟はすぐさま菫子の方へ振り向く。


 時が止まる。


 麟は小さく悲鳴を漏らす。


 炎のように揺らめく薄紫のオーラ。取り巻きたちはおろか、居合わせた一般の生徒までもが凍りつく。この場に居る全員が菫子の放つ殺気に気圧されていた。

 恐る恐る菫子の顔を見る麟。そこに表情は無い。能面のようだ。まるで、底の見えない穴を覗き込んでしまったような感覚を覚える。

 菫子は山高帽で分かりにくいが、容姿も整っている。同室の麟はそれを知っていた。そんな菫子が一切の表情を見せずに、ただ、目の前にいる相手をじっと見つめている。人形のようだ。


 次の瞬間、麟は気づく。これは無表情ではない。堪えきれない怒りの表情だ。


 深すぎる怒りに、表情が追いついていないのだ。


 全てを悟る麟。遠くから誰かの声が聞こえる。


 ぐらり、と体が傾く。力が入らない。


 意識が遠のく。



 気がつくと部屋のベッドで寝ていた。



 ──部屋に菫子の姿は無かった。




 * * *





 「改めまして、私は八雲紫。ここ、私立(しりつ)東火(とうか)魔導(まどう)学園(がくえん)の学園長を務めていますわ」




 夕暮れ時、朱に染まる学園長室に菫子は居た。




 「結論から申しますと退学処分となります」




 全く感情の読み取れない不思議な声で紫はそう告げる。完全に不貞腐れた菫子。




 「とはいうものの、封獣(ほうじゅう)ぬえ。彼女の態度は目に余るものがありました」




 淡々と続ける紫。




 「つまり、あなたには情状酌量の余地が存在します」




 静かにソファへと座る紫。顔を動かさず、目だけで正面に座った紫を見る菫子。




 「ランクマッチで勝てば退学を取り消しましょう。もちろん、強制ではありませんが」




 きわめて簡潔に要点を伝える紫。菫子は目を閉じ、大きく息を吐く。




 「分かったわ、勝てばいいのね?」


 「ええ。当然、敗北すれば退学していただきます」


 「上等よ、やってやるわ」


 「明後日の金曜日、放課後に行います。立会人は私が請け負いましょう」




 学園長室を後にする菫子。既に日は落ち、外は墨汁を垂らしたような漆黒だった。

 扉がノックされる。鍵をかけていたことを思い出した麟は鍵を開ける。扉を開けると菫子が入って来た。




 「菫子さん……」


 「大丈夫よ」




 布団に潜り込む菫子。




 「信じていますからね、菫子さん」




 そう呟いて麟は電気を消す。暗闇に包まれる部屋。


 ほどなくして眠りにつく麟。ポツポツと雨が降り始める。


 雨はやがてバケツをひっくり返したような勢いへと変わる。



 ──強さを増す雨音と共に夜が深まる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ