俱に天を戴けずとも
──燃える。桜が、燃える。
爛漫の墨染桜が世界を焦がす。
燃え盛る西行妖。それを見つめる菫子たち。西行妖と共に紫の計画も灰燼と化した。それは同時にこの世界の破滅が決定づけられたことを意味する。そして、菫子が元の世界へと帰る手段も失われた。
「私ならっ、菫子さんを元の世界に戻せますっ!」
麟が叫ぶ。
「別に良いわよ。ロクな世界じゃなかったし」
そもそも、菫子がこの世界へ来ることになった理由は同級生に突き飛ばされ、トラックに撥ねられたからだ。たとえこの世界が滅びるとしても戻ろうとは思わない。
「そう。戻る理由なんてない。ないのよ」
──本当にそうだろうか?
「ない。ないのよ」
「本当に良いんですか?」
──菫子の中で未練が鎌首をもたげる。
「本当に戻れるの?」
「ええ、戻せます。なんとなく分かるんです」
いつのまにか妖夢の姿は消えていた。麟はぼろぼろと泣きながら菫子に訴える。その顔が燃え盛る炎に照らされる。
「私は菫子さんに生きて欲しいですっ!」
「......そういえば、麟と出会ったのも春だったわね」
菫子は帽子を深く被り直し呟く。
──春。それは出会いの季節であり、別れの季節でもある。
「菫子さんっ!」
麟がもう一度、叫ぶ。
「そうね。空もこんなに赤くなってしまったし、そろそろお暇するわ」
瞬間、目の前が真昼のように明るくなる。
──秘封倶楽部活動記録、次週完結。
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