VS【幻想】
「【パイロキネシス】」
紅蓮の業火が紫を襲う。無論、これで倒せるとは思っていない。だが、簡単には突破出来ないだろう。
多少の猶予を得た菫子は改めて状況を整理する。菫子の目的は麟の救出だ。そのためにも西行妖を用いた世界の接木を防がねばならない。そして、肝心の西行妖の元へ辿り着くため、八雲紫を倒す必要がある。
「まずは【幻想】を突破しないとね」
その時、紅蓮の業火を掻き消して紫が姿を現す。火傷はおろか、かすり傷すら負っていない。全くの無傷だ。だが、この場にいることは間違いない。
「分身なんかで時間稼ぎしている感じじゃなさそうね」
紫はこの場にいるが、攻撃が当たらない。この二律背反に【幻想】の秘密が隠されているはずだ。
「貴女に私は倒せない。魔導の秘密が暴かれようと突破することは出来ないわ」
紫が手元で扇子を動かす。菫子が飛び退いた瞬間、背後にあった戸棚が消滅した。まるで最初から存在していなかったかのように。続け様に無数の弾丸が降り注ぐ。
「【念力】」
銃弾の雨を停止させ、紫へ向けて撃ち返す。だが、扇子を横へ薙ぐと同時に彼女の姿が吸い込まれるようにして消え、吐き出されるように現れる。
「避けたってことは自分が生み出したものは無効化出来ないのかしら?」
壁に埋まった弾丸が部屋全体を縦横無尽に動く。無論、掠るだけで肉が抉れる速度だ。だが、紫には当たらない。陽炎のようにすり抜けてしまう。【幻想】のカラクリを暴かないことには勝負にすらならないようだ。
紫の姿が僅かに揺らぐと同時に列車が虚空から飛び出してくる。咄嗟に【念力】で防御するが、弾き飛ばされ、壁に叩きつけられる。だが、菫子はガードしたまま、電車を捻る。バキバキと音を立てて捻れる電車。
「せいやっ!」
菫子が気合いを入れると鉄片やネジ、割れたガラス片が竜巻となって紫を襲う。瞬間移動で回避しようとする紫。だが、紫が虚空に吸い込まれると同時に菫子は竜巻の規模を拡大する。
「効かないわ」
空間が揺らぎ、吐き出されるように姿を現す紫。そして、扇子を軽く動かすと竜巻が一瞬にして消滅する。だが、消滅と同時に高圧の水流が紫を四方から貫く。
「【ハイドロキネシス】」
だが、紫は余裕の笑みを崩さない。手元で扇子を操作し、自身を貫く水流からぬるり、と逃れる。
「【念力】」
菫子は紫が持つ扇子をへし折る。そのまま、【パイロキネシス】で折れた扇子ごと紫を焼き尽くす。




