それでも
「結局、私は一人なのね」
董子は校門の前で呟く。
あの夜、私たちは負傷者を出しつつもレミリア・スカーレットを倒し、スカーレット財閥を瓦解させ、麟が待つ夢想堂へと戻った。
──だが、そこに麟の姿は無かった。
犯人は明白。Angra Mainyuの首魁、八雲紫だ。目的は分からないが、彼女は麟を『聖杯』と呼び、狙っていた。私たち二人が天子の助力を得て学園から脱出した日以降、目立った動きはなかったが、とうとう動き出したのだ。
幸い、残るAngra Mainyuのメンバーは少ない。八雲紫とその友人である西行寺幽々子。二人の従者である八雲藍と魂魄妖夢だけだ。
だが、依神金融はスカーレット財閥が壊滅するや否や、早々に手を引いてしまった。霊夢たちも同様に協力を拒否。私は夢想堂を追い出されてしまった。そして、私はまた一人に戻った。
今にして思えば、麟と相部屋になったのも、ランクマッチも、倶楽部の設立も、騒音塔に霊夢が現れたことも全て八雲紫が意図し、狙ったものだったのだろう。ともすれば、私が異世界転移したことすら八雲紫の仕業なのかもしれない。少なくとも、麟に連れられて入った体育館からはそうだ。
学園を脱出した私がAngra Mainyuを壊滅へ追い込むのも想定の範囲内。いや、そもそも八雲紫にとってレミリアのような他のメンバーは情報を得るための一時的な「目」や「耳」に過ぎないのだろう。私が義憤に駆られてメンバーを撃破することで八雲紫は自らの手を汚すことなく、一切の手間をかけずに処理することに成功したのだ。加えて、私が各組織と戦うことで麟を必要とする計画を邪魔されることなく進められる。正に一石二鳥。神算鬼謀が身体を持ったようだ。
各組織を撃破することで計画をより盤石なものにする、という目的を達成してしまった私は既に用済み。計画も私が居ても居なくても、抵抗してもしなくても関係のない段階まで進んでいるに違いない。
なら、孤立無援の私が敵の本拠地へ麟を助けに行く理由も合理性もない。仕方がなかったと麟を諦めることが正解なのだろう。
「違う。諦めは八雲紫が用意した模範解答。あえて茨の道を進む必要はない、という甘言」
私は宇佐見菫子。秘封倶楽部の初代会長であり、秘密を暴くもの。模範解答を破り捨て、非合理を生きる超能力者なのだ。
昔の私ならこの気持ちを群れたがる奴らがする悪魔の行為だと言って鼻で笑っただろう。けど、誰もが魔導を持つ世界でもはや私は特別じゃない。
そう、『特別な私』じゃなくて良い。
この気持ちに理由なんて必要ない。
たとえ独りでも私は麟を助ける。
私は門をくぐった。




