不死身の怪物
「癪だけど言われた通りね。私に人殺しの覚悟が無かっただけ」
「肉」を捻り潰す嫌な感覚。だが、董子はレミリアに勝利した。レミリアだったものへ目を向ける。そこにあるはずの死体が無かった。
「まさか、捻じ切られるとは思わなかったわ」
聞き覚えのある、聞こえるはずがない声。よく見ると黒い霧のような何かが血痕の周囲に漂っている。
「【発火能力】」
董子は即座に追撃しようとする。だが、それよりも早く霧が細腕に変化する。ほぼ同時に董子は喉元を掴まれ、押し倒される。そこからは一瞬だった。まるで逆再生するように霧がレミリアへと変化する。
「吸血鬼」
「ご名答」
早鬼と八千慧の容姿を回想する董子。ここは異世界。この世界には人ならざる存在が居る。目の前の彼女もきっとそうなのだろう。
「王手よ」
レミリアが力を籠めるとみしり、と頸椎が軋む音がする。
「【水流操作】」
高圧の水流がレミリアを襲う。だが、レミリアは董子を押し倒したまま、その全てを避けて見せる。続けざまに【発火能力】を発動。炎に包まれるレミリアだが、ビクともしない。むしろ、密着している董子の方が火傷してしまう。
「【水流操作】、解除」
レミリアが飛び退く。同時にずぶ濡れになる董子。
「流水が苦手なのは伝承通りね。銀の武器もダメなの?」
そう言いながら床に散らばった銀食器を全力で投げつける。だが、レミリアは全て避けるか、羽で叩き落としてしまう。
「羽があるとすぐにバレるから出したくないんだけど」
「正体云々なんて今更でしょ」
「それもそうね」
羽が一回り大きくなり、羽ばたく。と同時に床を高速で滑空し、突進する。突き出した腕は一撃で壁に穴をあける。パワーは全く変わっていないようだ。崩れた瓦礫を【念力】で投げつけるが、霧や無数の蝙蝠に変身され、躱される。流水もただぶつけるだけでは身体能力で強引に回避される。
「滅茶苦茶ね」
「スピード」「パワー」「タフネス」どれをとっても格が違う。弱点も多いがそれ以上に無法なスペックで弱点を突かせない。つまるところ、弱点が弱点として機能していない。
「むぅ……」
流水は有効だが、当たらない。物理攻撃全般は無効化される。炎や銀食器は効きはするが効果は薄い。
「日光、は無理か。朝まで私が持たない」
手軽に封印できるようなアイテムもなければ、交渉も難しい。
「陰気な顔してるわね」
「誰かさんのせいでね」
覚悟はあるが、術がない。董子は回避しながら頭を捻る。
「賭けはあんまり好きじゃないんだけど」
董子はレミリアを見据える。コンティニューはできない。残機もない。
「大人しく殺される気になった、わけじゃなさそうね」
当然、レミリアも董子が一計を案じていることに気づく。だが、突撃する以外に選択肢はない。睨み合いで不利なのはレミリアなのだから。
「【念力】」
レミリアの突進に合わせ、董子は超能力を発動する。貫手突きが董子の胴を捉える。だが、外向きの念力を鎧のように纏った胴を貫くには至らない。角材で横殴りにされたような衝撃に耐え、董子はレミリアを捩じ切ろうとする。だが、霧となって避けられる。
「【発火能力】」
董子は防御を捨て、最大火力で霧に変化したレミリアを焼き尽くす。
「最初に潰されたとき、追撃を防いだわよね」
返事はない。だが、初めて霧と化したときのように再生して襲ってこない。
「正解みたいね」
本社の上部が吹き飛び、火柱が上がる。勝者を告げる炎が闇を照らす。
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