イカれてる
「あちらは決着がついたようですよ。芳香ちゃん」
「随分、余裕ですね。貴女が倒されればあちらの女性も倒されるというのに」
そう言いながらも赤髪の女性、紅美鈴は目の前の青娥から目を逸らさない。一方で青髪の女性、霍青娥はニコニコと笑いながら芳香と戯れている。まるで飼い犬と戯れ合うように。
燃えるような赤髪と海のような青髪。色こそ対照的だが、衣装は似通ったチグハグな二人。
「では、始めましょう。お嬢様の敵は排除するのみ!」
「職務に忠実で素敵ねえ」
美鈴が闘気をみなぎらせようと、のんびりとした口調を変えない青娥。雷のような踏み込みとともに美鈴は芳香に発勁を放つ。もんどりうって吹き飛ぶ芳香。
「あらぁ、派手に吹き飛んだわねえ」
派手に吹き飛ばされた芳香の方を向き、心配するそぶりを見せる青娥。美鈴は振り向きざまに蹴りを繰り出す。風切り音とともに飛来する丸太のような足。だが、湯気か靄を殴ったように蹴りは青娥をすり抜ける。
「魔導ですか」
「羨ましいのかしら?」
「いえ、所詮は手品。魔導など私には必要ありません」
人や地域によって呼び名が変わる「魔導」は万人が持つものではない。あうんや美鈴のような持たざる者も少なからず存在する。そして、魔導は争いの種にもなってきた。それゆえ、魔導を忌避する人物も少なくない。そしてそれを「嫉妬」の二文字で片付けるタイプも多い。
「貴女じゃ私の【透過】を破れない。芳香ちゃんの【不死者】もね」
「たとえ勝てなくともここを通すわけにはいきません」
「進む気はないのだけれど。足止めを買って出た以上はね?」
やる気と結果は両輪で動くものではない。美鈴の攻撃は全て青娥をすり抜ける。そこで美鈴は芳香へ目をつける。先ほどの発勁は確かに命中した。そして、芳香を狙う美鈴を青娥は止めない。
「そっち、行ったわよ」
「わかったぞー、受けて立つー」
芳香は構えるが、それよりも早く美鈴の崩拳が直撃する。だが、芳香は吹き飛びこそすれど即座に立ち上がる。
「あんまりおいしくないぞー」
「なるほど。ダメージを食べているのですね」
「正解〜。芳香ちゃんは食いしん坊なの」
「そもそも、彼女は人間なのですか?」
青娥の顔から表情が消える。まるで能面だ。だが、美鈴は臆さない。
「芳香ちゃんはキョンシーよ。私の魔力で動くペットなの」
「だそうですよ」
「そうなのかー? せいがー?」
「ええそうよ。芳香ちゃんは私のペットなの」
笑顔で真実を伝える青娥。
「この女は貴女のことをなんとも思ってないのです。貴女はいいように使われていたのですよ」
「そうなのかー。でも、芳香は気にしないぞー」
満面の笑みでそう返す芳香。美鈴は小さく舌打ちし、バックステップで距離を取る。
「そこは飼い主に反逆するところじゃないんですかね?」
「私たちは非常に仲がよろしいのです。仲間割れなんてしませんくてよ?」
皮肉に皮肉を返す青娥。ふと、芳香がいないことに気づく。瞬間、後ろから羽交締めにされる美鈴。振り解こうとするが、ビクともしない。そのまま、力任せに押し倒され、完全に制圧される。
「ね? 貴女じゃ私たちには勝てない」
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