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秘封俱楽部活動記録 ~Last Occultician~  作者: 伽藍堂本舗
最終章『Angra Mainyu』
35/53

罪と犠牲と信念

 「おりゃあッ!」


 地面を陥没させるほどの勢いで踏み込んだ天子はそのまま雷のような袈裟を落とす。映姫はギリギリまで軌道を観察し、最小限の動きで回避する。そのまま、逆袈裟、横薙ぎ、突きと攻撃を繰り出す天子。更に予備動作の隙をカバーするように董子が『念力(サイコキネシス)』や『発火能力(パイロキネシス)』を繰り出す。だがそれら全てを映姫は躱すか無効化してしまう。


 「剣戟は有効そうだけど当たる気がしないわね」


 天子は剣を正眼に構えつつ、後ろにいる董子へ呼びかける。


 「物理攻撃が有効、ってわけじゃなさそうなのよねぇ」


 周囲に浮岩石を浮遊させながら董子は言葉を返す。


 「貴方たちの覚悟はこの程度なのですか? であれば容赦する必要はありませんね」


 映姫から発せられる圧が膨らむ。警戒を強める天子と董子。次の瞬間、董子は激しい頭痛とめまいに襲われ、蹲ってしまう董子。『念力(サイコキネシス)』が解除され、浮遊していた岩石が音を立てて落下する。


 「どうしたのッ!?」


 背後で呻く董子に声をかける天子だが、返事はない。天子は映姫を睨みつけ、刀を握る手に力を籠める。


 「私の【(ギアス)】で気圧を半分にしただけです」


 「『半分にする程度の能力』、それがアンタの魔導……」


 「ええ、私は手で触れたあらゆるものを半分に出来る。人体であっても例外ではありません」


 「そりゃ恐ろしいわね。けど、関係ないわ」


 その言葉を聞いた映姫は一瞬だけ微笑したあと即座に仏頂面に戻る。


 「比那名居天子、貴女はなぜ宇佐見菫子を守ろうとするのですか? 財閥復興のために所属していたgraveyardを壊滅させた菫子が憎くないのですか?」


 それを聞いた菫子はバツの悪そうな表情を浮かべる。だが、天子は映姫の言葉を笑い飛ばす。


 「『私が見込んだ』、それ以上の理由は無粋。出自も経緯も興味ないわ」


 「非合理的ですね」


 天子の返答を聞いた映姫は口では否定的な言葉を述べつつも微笑を浮かべ、脱力する。


 「非合理的ですが、まあ及第点と言えるでしょう。少なくとも貴女が庇おうとする程度には人徳と魅力があるようです」


 元より殺し合うつもりはありませんので、と言って執務室へ戻る映姫。同時に魔導が解除され、菫子がよろよろと立ち上がる。天子の肩を借りて執務室へ戻る菫子。ソファに寝転びながら映姫の話を聞く。天子は寝転ぶ菫子の側に座り、周囲を警戒している。


 「さて、我々『AngraMainyu』はいくつかの組織によって構成されています。恐らく、霊夢が調べているのでしょう?」


 「みたいね」


 「私に指名手配の指示をしてきたのは神霊党の豊聡耳神子(とよさとみみのみこ)です。そして、彼女たちの後ろ盾は古明地組です」


 「指定暴力団じゃない」


 「ですので菫子のことをマスコミにリークし、神霊党が対応に追われている隙に古明地組を壊滅させ、神子を失脚させるのが良いと思いますが?」


 「迂遠な言い回ししてんじゃないわ。それしか無理なんでしょ?」


 天子が呆れたようにいうと映姫は無言で肩をすくめる。


 「ともかく、次は古明地組ね。菫子、立てる?」


 「なんとかね」


 「貴女は自身の信念を貫いて見せなさい、宇佐見菫子。もし、あなたが信念を曲げるようなことがあれば私が法廷で裁いて差し上げます」


 「……お説教どうも。肝に銘じておくわ」

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