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秘封俱楽部活動記録 ~Last Occultician~  作者: 伽藍堂本舗
最終章『Angra Mainyu』
34/53

【戒】

 「手合わせ、ねえ」


 菫子は怪訝な表情で映姫の言葉を繰り返す。天子も同様に疑念の眼差しを映姫に向ける。


 「何を企んでるワケ?」


 菫子は威圧的な声で疑問を口にする。だが、映姫は怯むことなく疑問に答える。


 「推定無罪の原則に則った判断です。人づての情報など何の根拠にもなりません」


 映姫のすぐそばには白杖が立て掛けられている。道中の足取りや執務室内での振る舞いからして全盲で間違い無いだろう。見えない目で何を見ようというのか。映姫の返答を受けてもなお、菫子は映姫の「手合わせ」に対する疑念と警戒を拭えないでいた。


 「今の貴女は八雲紫に裏切られ、疑心暗鬼に陥っているのでは?」


 「私はハナから誰も信じてないわ」


 「嘘ですね。誰も信用していないという言葉は博麗霊夢の元に居るという事実と矛盾しています」


 言葉は取り繕えても行動は正直です、と映姫は淡々と告げる。落ち着き払った映姫とは対照的に菫子の怒りは爆発寸前だった。左手は固く握られ、右手の人差し指で机をせわしなく叩いている。


 「やればいいんでしょやれば! ここで話してても埒が明かないわ」


 張り詰めた場の雰囲気に痺れを切らした天子がバンッとテーブルに両手を叩きつけながら勢いよく立ち上がり、そう言い放つ。それを聞いた映姫は無言で立ち上がり、執務室の外へ出る。二人は虚を突かれたものの、慌てて映姫の後を追う。


 「ここは?」


 「いわゆる運動場です。執務室から少々遠いのは改善点ですね」


 淡々と説明する映姫。董子たちと出会った瞬間から態度が一切変わらない。いっそ不気味さすら感じる。董子たち二人は嫌な感覚を振り払うように大きく身体を動かし、手合わせの意志を現す。その様子を黙って観察する映姫。


 「発火能力(パイロキネシス)


 董子が生み出した炎が映姫に襲い掛かる。だが、映姫は微動だにしない。そのまま炎に包まれる映姫。


 「私が言うのもなんだけど殺すのはまずいんじゃ?」


 「これで死ぬ相手とは思えないけど」


 天子は燃え盛る映姫を見ながら呟く。だが、突如として映姫を包んでいた爆炎が初めからなかったかのように消え去ってしまう。火傷すら追わず、悠々と接近してくる映姫。董子は天子の生み出した岩石を『念力(サイコキネシス)』で映姫に叩きつけようとする。だが、それらは全て真っ二つに両断され、防がれてしまう。


 「何だと思う?」


 問いかけられた天子は苦笑いとともにさあね、と返す。天子は両断された岩石を操作し、砂嵐を引き起こす。映姫の背後に回った董子は砂嵐の発生と同時に『水流操作(ハイドロキネシス)』で水をぶつける。高圧で噴射された水流は巻き上げられた砂を巻き込み、映姫へ襲い掛かる。


 「砂を研磨剤代わりにする発想は素晴らしいですが、私の【(ギアス)】は破れません」


 そう言って映姫はウォーターカッターを片手で防ぐ。急速に勢いを失った水流は飛沫となって辺りに飛び散る。ほぼ同時に砂嵐を形成する砂が勢いを失う。映姫は砂によって汚れてこそいるが、無傷のままだ。


 「ならこういうのはどう?」


 天子が剣を抜き、地面に突き立てる。すると、映姫の足元が剣状に変化し、隆起する。だが、映姫が触れた瞬間、隆起した地面は縦に割られてしまう。すぐさま、天子は縦に裂けた岩で映姫を縛り上げようとする。だが、それも真っ二つにされ、防がれる。バラバラになった破片を董子が『念力(サイコキネシス)』で映姫に叩きつける。だが、さらに細かい破片に分解されるだけで手傷を負わせることすら出来ない。


 「……今更だけど初見で他人の魔導を攻略するのキツ過ぎない? クソゲーなんてもんじゃないわよ、これ」


 「恐らく、私の【大地(ガイア)】よりも魔理沙の【星屑(メイデン)】に近い魔導よ」


 「理屈が分からなきゃどうしようもないパターンじゃないの、それ」


 「多分ね。頑張るしかないわ」


 映姫は依然としてこちらの出方を窺っている。攻撃の意志は見られない。


 「防御に特化した魔導なのか、それとも」


 「攻撃の加減ができないパターンかね」


 「ええ、どちらにせよ厄介よ」


 「既に厄介だから今更ね」

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