比那名居天子
依神金融での一件から数日後、董子とあうんの二人は廃校となった中学校の校舎内で比那名居天子とそのお目付け役である永江衣玖と対峙していた。霊夢の姿はない。
「霊夢との連絡はどう?」
「ダメです。この場所を示すメール以降、連絡がつきません」
「やるしかないわね、私が天子を相手するわ」
「なら私は衣玖さんを」
「作戦会議は終わった? 終わってないなら二人同時でも構わないぞ」
ロングブーツを履き、半袖ロングスカートという装いの少女、比那名居天子は董子たちにそう言い放つ。
「私一人で十分よ、二人がかりなんて卑怯じゃない?」
煽り返す董子。天子と董子は互いに火花を散らす。そのすぐそばでは衣玖とあうんが睨み合う二人を生暖かい目で見ていた。
「そこまでいうならやってやろうじゃない!グラウンドに出なさい!」
「望むところよ」
董子と天子の二人はグランドへ向かい、あうんと衣玖の二人だけが教室に残された。
* * * * *
──廃校舎、グラウンド。
改めて対峙する董子と天子。天子は模造刀を片手で持つ。一方、董子は周囲に目を走らせ、念力で武器にできそうなものがないか探す。
「私の名は比那名居天子。比那名居家の令嬢にして【大地】を操るもの!」
天子は声高らかに名乗りを上げ、地面に模造刀を突き立てる。瞬間、大地が揺れる。
「地震を起こす能力?」
念力で空中へ逃げる董子。だが、天子は傲岸不遜な表情を崩さない。浮遊する董子に模造刀を向ける。すると、地面が隆起し、董子に襲い掛かる。
「地面そのものを操る能力ッ!」
董子は念力で剣状に隆起した地面をへし折り、天子へ投げ返す。天子はすぐに足元の地面を円柱状に隆起させ、回避する。更に円柱状に隆起した足場の側面から無数の礫が散弾のように放たれる。董子はサッカーゴールを念力でぶん回し、それを防ぐ。
「なかなかやるじゃない、けど私と違って発想力が足りないわ!」
天子が叫ぶ。それと同時に足場の側面が槍状に変化し、勢いよく伸びる。董子は水流操作でプールの水を叩きつける。
「泥になって崩れてしまったか」
天子は崩れていく足場からジャンプで離れつつ、次の一手を考える。だが、着地と同時に大きな影の呑まれる。
「サッカーゴールッ!?」
ようやく驚いた表情を見せる天子。董子は礫を防いだことでボロボロになったサッカーゴールを着地点目掛けて叩きつけたのだ。董子は空中から立ち込める砂煙を見つめる。
「死んじゃいないはず」
次の瞬間、無数の巨岩が空へ落ちるように勢いよく飛んできた。間一髪、董子は瞬間移動で回避する。だが、浮遊していた董子へ叩きつけるように飛ばされた巨岩が今度は自由落下してきた。
「やることなすこといちいち規模が大きいのよッ!」
董子は悪態をつきながら巨岩の軌道を念力で捻じ曲げ、回避する。更に岩同士をぶつけ、姿の見えない天子への反撃を試みる。だが、天子は地面をかまくらのように変化させることで降り注ぐ巨岩から自らを守っていた。
「こんなの反則よッ! まだぬえや魔理沙のがマシだわ」
董子は悪態をつく。ただでさえ超能力の連続使用は体力を大きく削る。そのうえ、数トンはあろう物体を絶え間なく動かしたのだ。董子に残された体力は多くない。このままではそう遠くないうちに文字通り叩き潰されるだろう。
「所詮は学生、あなたが私に勝つことは決してないわ。降参しなさい」
火力、練度、経験、全て天子が格上だ。今の董子が真正面からぶつかって勝てる相手ではない。
「けど、逃げるわけにはいかないのよ」
董子は呼吸を整え、突破口を模索する。だが、ぬえのように気合で勝てる相手ではない。魔理沙とは違い、小細工は通用しない。今の董子が勝てる相手ではない。
──手詰まり。その4文字が董子の脳裏をよぎる。
「まだよッ! まだ終わっちゃいないッ!」
董子が吼える。岩陰から立ち上がり、天子の前に立つ。




