依神金融
「あんなやつ、とっとと警察に突き出せば良いのに」
スカーレット財閥を襲撃した魔理沙の身柄は霊夢がレミリアたちの意見を突っぱねたことで未だに董子たちの元にある。それが気に食わない董子は探偵事務所の一室であうんに不満を漏らしていた。
「仕方ないですよ、魔理沙さんの身柄は依神金融との交渉材料にもなりますから」
あうんは魔理沙が【星屑】を使って逃走しないよう見張りながら怒り心頭といった様子の董子をなだめる。だが、友人である麟は騒音塔で魔理沙に誘拐されかけている董子の怒りは中々収まらない。
「っていうかアンタの知ってることはほんとにアレだけなの?」
そもそも、今回の事件は魔理沙が匿名で「『聖杯』と呼ばれる何かついて書かれた文書を盗むこと」を依頼されたことで始まった。そのため、霊夢たちは魔理沙に聞けば文書が狙われる理由が分かると考えていた。
だが、魔理沙が依頼主に関する情報をほとんど持っていなかった。そして、董子は本当に何も知らないのかと魔理沙を問い詰める。しかし、魔理沙は口調こそ粗野だがハッキリと董子の質問を肯定した。
「依頼主の素性くらい把握しときなさいよ、コソ泥が」
「裏の世界じゃ詮索しないほうが信用されるんだよ」
「アウトロー気取りなわけ? 犯罪者は犯罪者よ」
売り言葉に買い言葉、互いに罵倒しあう董子と魔理沙。そんな二人の頭を御幣でシバく霊夢。
「ホラ、依神のトコ行くわよ」
霊夢は魔理沙が情報を持っていないと判明した時点であうんを通じて次の一手を打っていた。魔理沙を連れた霊夢たちは大手金融会社『依神金融』へ向かう。
* * * * *
「よく来たなー、霊夢ー。菓子折りは持ってきたか―?」
ビルの入口で棒立ちしていた赤色の中華風の半袖上着を着ていた女性が霊夢に対して挨拶もそこそこに菓子を求める。
「はい、これ」
「ありがとー! せいがー、お客さんだぞー!」
菓子折りを受け取った女性はロビーに向かって名前を呼ぶ。すると、かんざしを挿した水色のワンピースを着た女性が扉をすり抜けて現れた。
「もう、芳香ちゃんったら。お客様には敬語を使いなさいと言ってるでしょ?」
一連の会話から察するに中華風の服を着てハンチング帽を被った棒立ちの女性が芳香、彼女に名前を呼ばれて現れた水色のワンピースを着た青髪碧眼の女性が青娥らしい。
「案内、してもらえる?」
「かしこまりましたわ。こちらへどうぞ」
青娥はするりと霊夢たちの前に立ち、先頭となって歩みを進める。芳香は受け取った菓子を食べながら列の一番後ろを歩いていた。菓子を食べ終わると芳香は菫子とその前を歩く菫子に話しかける。
「そういえば、オマエは霊夢と魔理沙とどういう関係なんだー? 初めて見る顔だぞー?」
「私は東火学園の生徒で職業体験の最中、まさかここまでややこしいことに巻き込まれるとは思わなかったけど」
「そうかー、学生かー。じゃあ、白黒魔女と紅白巫女の逸話は知らないのかー?」