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『聖杯』

 「これで良しッと」


 背中側へ手を回されたうえで手錠をかけられた魔理沙。とはいえ、【星屑(メイデン)】を使えば拘束から逃れるのは容易だ。しかし、霊夢と董子に加えてパチュリーやレミリア、あうんもいるこの状況では拘束から逃れても意味がない。だから、魔理沙は不貞腐れながらもあぐらをかいて大人しくしていた。


 「さて、知ってることを洗いざらい喋ってもらおうかしら?」


 手にした御幣で自分の肩をトントンと一定のリズムで軽く叩きながらそう問いかける霊夢。


 「その前に一つ聞きたいんだがな?」


 そう言って魔理沙は董子の方へ向く。そして、尋ねる。


 「お前の『私を倒さなきゃ逃げられない』って発言は本当なのか?」


 「んなわけないでしょ、ここにアンタを引き留めるための嘘よ」


 「やっぱりな、ということはそこにいるパチュリーあたりの仕業か?」


 「そうよ、私の仕業。霊夢に頼まれたの」


 魔理沙の推測をパチュリーはボソボソと肯定する。


 「疑問は解決したかしら? なら次はこっちの疑問を解決してもらうわよ」


 「つっても私はあくまでフリーの怪盗。大したことは知らねえぜ?」


 「依頼主とかについて知れれば十分よ。さあ、喋って貰おうかしら?」


 「……実のところ、依頼主は匿名だったんだ。だが、ブツについては懇切丁寧に説明された。眉唾な内容だったがな」


 魔理沙はゆっくりと記憶を辿りながら説明を続ける。


 「ブツ自体は機密書類で違いない。だが、純粋な書類を欲しがる奴はいない。中身、つまり記されている情報が大事らしい」


 「あの書類には『聖杯』についての内容が書かれていたわ。なぜそれを?」


 厳しい顔をしたレミリアが魔理沙を問い詰める。だが、魔理沙はそれは知らねえと答える。


 「つまり、匿名の依頼主はアンタに『レミリアが保管する聖杯について記された書類を盗んできて欲しい』と依頼したわけね?」


 霊夢が確認すると魔理沙は間違いないと断言する。直後、完全に自分が蚊帳の外であることに痺れを切らした菫子が魔理沙の処遇について尋ねる。


 「私としては麟を攫おうとしたコイツをお咎めなしで解放するのは嫌なんだけど?」


 「警察に突き出せば良いんじゃない?」


 「いや、ここで警察に突き出すのはもったいないわ」


 霊夢がレミリアの判断に待ったをかける。霊夢は当たり前だけど最終的には警察には突き出すわ、と前置きした上で魔理沙にはまだ利用価値があると主張する。


 「依頼主をどうにかしない限り、第二第三の()()()が間違いなく現れるわ」


 「確かにそうね。けれど今すぐコイツを警察に突き出せないことと何の関係があるのよ?」


 「コイツを警察に突き出せばその時点で黒幕である依頼主との繋がりが消えるのよ」


 魔理沙を冷めた目で見る霊夢。つられてその場にいる全員が魔理沙に注目する。全員から突き刺すような視線を受けた魔理沙は居心地悪そうにみじろぎする。


 「とにかく、コイツの身柄は私が預かるわ。いいわね?」


 強引に話をまとめ、強請(ゆす)るように確認をとる霊夢。レミリアと菫子は複雑な表情をするが、承諾する。


 「決まりね。あうん、依神姉妹に連絡とってくれる?」


 「分かりました」


 「2人とも、帰るわよ」


 有無を言わせぬ勢いでそう言った霊夢は魔理沙とあうんをがっしりと掴むと魔理沙が突き破った窓から外に出る。2人を抱えたまま、重力を無視して飛行する霊夢。菫子は一瞬呆気に取られるが、すぐさま後を追う。

いつもご愛読していただき、ありがとうございます!おかげさまで2,500PVを達成できました!


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