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リターンマッチ

 「うーむ、どうしたもんか」


 箒にまたがった魔理沙は本社ビルの上空で旋回しながら頭を捻っていた。


 霊夢が講じた策。それは射程距離内を手分けして見張るというものだ。至極単純な作戦だが、それゆえに突破は困難である。


 どうしようかと頭を悩ます魔理沙の姿をサーチライトが照らし出す。それと同時に風切り音と共に御幣が飛来する。


 「うおあッ!? バレちまったかッ!?」


 間一髪、御幣をギリギリで回避した魔理沙はそのまま、低い体勢でビルに突っ込む。同時に煙玉をバラ撒き、霊夢たちの視界から外れる。


 「ガラスを突き破って中へ入ったわッ! 見つけ次第、とっ捕まえるのよッ!」


 すぐさま霊夢が無線で菫子たちに指示を飛ばす。



* * *



 「いてて……」


 霊夢から逃れるために屋内へ逃げ込んだ魔理沙。煙玉の影響で霊夢は魔理沙を見失ったが、代わりに魔理沙も全身をガラスで切ってしまった。


 「とりあえず止血したいとこだがそうも言ってられなそうだな」


 「死なれると困るから止血ぐらい待ってあげてもいいわよ?」


 「そりゃお優しいことで」


 通路の奥から現れた董子は言葉とは裏腹に薄紫のオーラをまとっている。完全な臨戦態勢。魔理沙は先ほど突き破り、風通しがよくなった壁際までジリジリと後ずさる。目はまっすぐに董子を見たまま、ノールックで取り出したビー玉を外へ放り投げる。


 「ちなみに私を倒さなきゃ逃げられないわよ」


 董子が警告すると同時に魔理沙が投げたビー玉がジュッ、っという音ともに溶解する。


 「……みたいだな」


 「一応、聞くけど顔見知りのよしみで見逃してくれたりは?」


 「友達を攫おうとした奴を見逃すバカは居ないわよ」


 グズグズしていたら霊夢たちが応援とともにやってくるだろう。時間はない。


 「宇佐見董子だったな、六文銭は持ったか?」


 「今時の学生は金欠なのよね」


 「そうかい、なら向こうでひん剝かれるしかねえなァッ!」


 そう叫ぶと同時に魔理沙は両手で抑え込むように握った八卦炉を構える。それを見た瞬間、真横に飛ぶ董子。一瞬遅れて発射されたレーザーが廊下を直線に焼き焦がす。すぐさま追撃しようとする魔理沙。その足元に散らばったガラスの破片が僅かに動く。すぐに魔理沙は自分と菫子の位置を入れ替える。


  【星屑(メイデン)】の発動を察知した菫子はすぐさま念力(サイコキネシス)を解除。再発動する。その僅かな隙をついて魔力を八卦炉にチャージする魔理沙。構わず董子は魔理沙に向けてガラス片を突風のようにたたきつける。


 「それは芸が無いんじゃないか?」


 冷静に位置を入れ替え、ガラス片を回避すると魔理沙。八卦炉の中心に光が収束していく。まばゆい光が董子を背後から照らす。


 「マスタァァァスパァァァク!!!!」


 魔理沙が叫ぶと同時に光の奔流が董子に襲い掛かる、はずだった。


 「水流操作(ハイドロキネシス)


 突如として魔理沙の視界が滲む。魔理沙に直撃した水柱は視界を奪うと同時に八卦炉を弾き飛ばした。


 「一張羅なんだぜ? これ」


 水でびしょびしょになった魔理沙は皮肉を垂れるが菫子は意にも介さない。瞬間、先ほどの水流が直角に曲がり、背後から魔理沙に襲い掛かる。魔理沙は不意を突かれ、転びかけるがなんとか踏ん張る。


 水の出どころは先ほどのレーザーによって損傷した配管だ。董子は一定の距離を保ちながら配管から噴き出す水を操作する。連続して流動する水なら【星屑(メイデン)】によって防がれないのではという予想は的中したようだ。


 「どう? 降参する?」


 「ゲホッゲホ。クソッ! 大金積まれてんだからそう簡単には諦めねえぜ」


 配管の損傷部分を塞いだ魔理沙は咳き込みながらそう答える。


 「そう。でも残念、時間切れよ」


 「……なるほどな。一本取られたな、こりゃ」


 董子の後ろから聞こえてくる足音。その意味を理解した魔理沙は脱力し、肩の高さでひらひらと手のひらを振る。

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