スカーレット財閥 CEO
「とはいえ、依頼内容についてはメールにてお伝えした通りでございます」
「確か、魔理沙から予告状が届いたのよね」
「魔理沙ッ!?」
霊夢の放った言葉に思わず反応する菫子。大声と共に狭い車内で勢いよく立ち上がったせいで天井に頭を思いっきりぶつけてしまう。
「……痛ッ!!?」
「こんなとこで思いっきり立ち上がったらそりゃそうなるわよ」
頬杖をつき、外をぼんやりと眺めている霊夢が呆れたように呟く。コホンッと一つ咳払いし、咲夜は説明を再開する。
「私どもとしましては予告状が届いた以上、無視することはできません」
「けれども、不特定多数が出入りする状況を作りたくないから新たに警備を雇うことが出来ない。だから、信用できる私たちに少数精鋭で警備をして欲しい、そういうことでしょ」
「ご明察の通りです。また、西行寺家や八意医療大学、依神金融にも予告状が届いているそうです」
霊夢が眉をしかめる。
「めんどくさいわね」
「ちょうど、3人いるので手分けすればすぐに済みますよ」
「だと良いけどね、めんどくさ」
「咲夜さん」
「ええ、ありがとう美鈴。皆様、もうすぐ本社ビルに到着しますので準備の方をお願い致します」
そう言いながら咲夜はバッグから携帯電話を取り出し、電話をかける。程なくして、車が停止する。美鈴と呼ばれた運転手の女性は停止と同時に車を降り、霊夢たちよりも早く後部座席のドアを開く。車外に出た董子はキラキラと輝く摩天楼の威容に圧倒される。その正体はガラスだ。ビルの壁面が全てガラス張りになっているのだ。
「相変わらず、金かけてるわね」
興味なさげに呟きながら入口へ向かう霊夢。ビルの存在感に圧倒されていた菫子とあうんは我に帰り、慌てて後を追う。
「あれ、けっこう暗い」
ガラス張りにも関わらず、建物内が暗いことに戸惑う菫子。外から内部の様子は見えなかったが、内部から外の光景は綺麗に見える。ということはガラス自体に何かしら特殊な加工が施されているのだろう。
だが、目的がわからず董子は頭を悩ませる。多少なりともこのような加工がされなければ建物として成立しないのは分かる。だが、間に二人しかいないのに先頭を歩く咲夜が見えないほど暗くする必要はあるのだろうか。
「CEO、よろしいですか?」
重厚なドアを数回ほどたたき、扉越しに声をかける咲夜。扉をノックする仕草すら見惚れるほどに美しい。
「構わないわ」
中から返事をする声はやや幼い。咲夜が脇に避けつつ、扉を開く。部屋の中に居たのは見るからに高級な革張りの椅子に座る女性だった。いや、座るというよりは乗っかっているという表現の方が正しいかもしれない。
「よく来たわねッ! 私がスカーレット財閥のCEO、レミリア・スカーレットよ!」
漫画なら頭の横あたりにえっへん、という文字が浮かんでいるのだろう。威厳を出そうとしているのが余計に可愛らしさを強調している。
「相変わらずのちんちくりんね」
「仕方ないでしょッ!」
130cm程度だろうか。レミリアと名乗った女性は幼女だった。
「ま、まあいいわ! 咲夜、説明は終えているのかしら?」
「はい、説明は完了しております。また、霊夢様は既にお嬢様の意図にもお気づきのようです」
「なら、私から伝えるべきことは限られているわね」
「そうね、私が知りたいのは予告状の中身だけだし」
短い会話で認識のすり合わせを終えたレミリアはパチンッと指を鳴らす。すると無言で本を読んでいた紫髪の女性が頭を上げる。
「レミィ」
「何よ、パチェ」
「もう、いいわ。これでしょ」
パチェと呼ばれた女性は引き出しから予告状を取り出し、咲夜に向けて投げ渡す。咲夜がキャッチしたのを確認すると再び読書に戻ってしまった。
「こちらです」
「ええ、遠慮なく見させてもらうわ」
パチュリーから咲夜を経由して予告状を受け取った霊夢はあうんと董子を呼ぶ。霊夢が持つ予告状を覗き込む董子たち。
「ご丁寧に日時と時間まで書くとか……」
小馬鹿にしたように呟く董子。
「けど、アイツの【星屑】が厄介なことに変わりはないわ。少なくとも、一般的な警備の理屈は通じない」
「どうしますか?」
「アイツの【星屑】は物と物の位置や人同士の位置を入れ替えられる。予告状の内容を鵜呑みにするなら――」
そこまで言ったところで霊夢はレミリアに質問する。
「予告状に書いてある機密書類の場所は?」
「このビルの地下にある金庫の中よ」
「まだ、本物はあるのよね。すり替えられたりはしてない?」
「ええ、間違いなくあるわ」
「パチュリーは魔理沙の星屑を見たことあるかしら?」
「パチェ、どうなの?」
「あるわよ」
「なら、いますぐ射程距離の有無を確認しましょう。場所はあるかしら?」
「手配するわ。咲夜」
咲夜はレミリアから名前を呼ばれると同時に実験場を手配する。
「お嬢様」
「ええ、ありがとう咲夜。霊夢、大丈夫よ」
「予告状を信じるなら襲撃は今日の深夜よ。ったく、なんでこんなギリギリに依頼をよこしたのよ……」
「仕方ないでしょ、予告状が届いたのが今日の朝なんだから」
「文句言っても仕方ないわね、とっとと済ませちゃいましょ」
「既に準備は整っておりますので裏口からどうぞ」
「ええ、アイツが予告状を陽動に使うとは思えないけど念のために警戒は怠らないようにして頂戴」
「かしこまりました、お気をつけて」




