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夢想堂

 ──探偵事務所『夢想堂』。


 掠れた文字でそう書かれた看板が風に揺られ、キィキィと寂しげな音を立てている。看板が掲げられている建物自体もこじんまりとしている。壁面や窓の手入れも全く行き届いていない。恐らく、家主がメンテナンスをサボっているのだろう。少なくとも、マメな性格ではなさそうだ。


 「場所、あってるわよね」


 もう一度、右手に握った地図を確認する菫子。場所に間違いはない。だが、それが余計に菫子を不安にさせる。いっそ、地図が間違っていたら良いのに。そう思いながら菫子は頭上に注意しながら扉に近づき、ノックしようとする。


 次の瞬間、扉が乱暴にバーンと音を立てて開かれる。菫子は大きく飛び退き、すんでのところで扉の直撃を避ける。代わりに尻もちをついてしまった。


 扉の向こうから現れたのは数ヵ月前に騒音塔で菫子たちが出会った博麗霊夢だった。だが、霊夢は菫子のことを全く覚えていないようで眉間に皺を寄せ、睨むように見つめている。見下ろされることに苛立ちを感じた菫子は立ち上がり、服の汚れを両手で払い落とす。


 「職業体験で学生の方が来られると朝から何度も伝えましたよね!?」


 そう言いながら若草色のカールした髪を腰まで伸ばした女性が慌てた様子で建物から出てきた。背丈は菫子より少し低いくらいで勾玉のような柄があしらわれた赤色のシャツと短パンを着ている。



 「私は高麗野あうん。少しの間ですがよろしくお願いしますね、宇佐見菫子さん」


 丁寧な挨拶とともに一礼するあうん。


 「こちらこそ先の件では大変お世話になりました。今回もよろしくお願いいたします」


 事前に暗記した挨拶を述べ、あうんと同じように一礼する菫子。お互いに挨拶を終えるとあうんは菫子を探偵事務所の中へ招き入れ、詳しい説明をしようとする。だが、そこで思わぬトラブルが発生する。


 なぜか霊夢が菫子と共に依頼をこなすことを渋り始めたのだ。


 「気に入らないわね」


 「霊夢さん」


 「嫌なモンは嫌なんだけど」


 「霊夢さんッ!」


 目の前に菫子がいるにも関わらず、不快感を隠さない態度を注意しつつ、なんとか霊夢を説得しようとするあうん。


 「えー、でも」


 「でももストライキもありません! 観念してください」


 小一時間ほど前から続く不毛なやり取り。さすがに嫌気がさしてきた菫子はそっと席を立とうとする。だが、菫子が席を立つ直前に机に置かれていたパソコンから通知音が鳴る。


 「何の音?」


 「この音は新規の依頼ですね、霊夢さん?」


 「んー?」


 霊夢は慣れた手つきでパソコンのメールボックスを開き、依頼内容に目を通す。そして、顔をしかめる。菫子とあうんが横から画面を覗き込み、差出人を見る。差出人の欄にはユナ・ナンスィ・オーエンとある。


 霊夢は簡単なウィルスチェックを済ませ、依頼内容を確認する。だが、書かれた内容は三人の想像していたものとは異なっていた。


 「フィットネスクラブ『レミリアストレッチ』で会いたい、か」


 「行きますか? 霊夢さん」


 「ええ、こうなったら仕方ないわね。菫子、とっとと支度してあんたも来なさい」


 こうして三人は指定されたフィットネスクラブ『レミリアストレッチ』へと向かった。


 「レミリアストレッチというとスカーレット財閥の関連企業ですね」


 「そうね、CEO(最高経営責任者)のレミリアとは何度かあったことあるけどあんまり好きじゃないわ」


 移動しながらそんな雑談をしていた三人は気づけば目的地に到着していた。出入り口と言う目立つ場所で待っていたのは銀髪ショートの長身の女性だった。


 「お待ちしておりました。そちらの方は?」


 「東火学園の生徒、職業体験の時期なのよ。何か問題ある?」


 「いえ、なにも問題ありません。守秘義務さえ守っていただけるのでしたら」


 「それで? 何の用よ」


 「ここは人目が多すぎますゆえ、まずは本社へご案内いたしますわ」


 そう言って女性は停めてある車を指さす。三人を後部座席へ乗せ、自分は助手席へと乗り込む。そして、運転手に短く指示を出す。走り出した車の中で女性は名を名乗る。


 「自己紹介が遅れてしまい、申し訳ございません。私は十六夜咲夜と申します」


 「スカーレット財閥のCOO(最高執行責任者)ですね」


 「ええ、その通りです。よくお知りでおいでですね、あうん様」


 「お得意さまですので」


 咲夜は後部座席に座る三人とバックミラー越しに目を合わせ、説明を始める。

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