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秘封俱楽部活動記録 ~Last Occultician~  作者: 伽藍堂本舗
第一章『時代遅れの異世界転移』
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時代遅れの異世界転移

 身体が重い。頭痛がする。まるでインフルエンザにでもかかったように。体に鞭打って上体を起こす。菫子の目の前に広がっていたのは中世ヨーロッパによく似た風景だった。




 「ええ……」




 菫子は困惑した。目を閉じ、自分を落ち着かせるように大きく深呼吸する。いくらか冷静さを取り戻した菫子は服装の変化に気づく。目を覚ます前の記憶では菫子は学校帰りだった。しかし、今の菫子は白い長袖のスクールシャツの上に菫色のベストを着ており、下にはプリーツスカートを履いている。更にマントと山高帽を身に着けており、まるでマジシャンのような服装だ。



 ──ひみつをあばくものとしての服装である。




 「こうなった理由を暴けとでもいうのかしら?」




 菫子は既に一つの結論を得ていた。それは自分が異世界転移したということ。中世ヨーロッパに酷似した風景。服装の変化。目覚める前の記憶。これらは異世界転移の五文字で全て説明できる。だが、あまりにも荒唐無稽。普通なら検討すらせずに切り捨てる非常識な結論。しかし、オカルトを追い求めた菫子にとっては違う。



 非常識は非常識にあらず。



 よって彼女は「異世界転移」という事象に納得する。未知が恐怖を呼び起こすなら納得は前へと進む原動力となる。




 「三文小説じゃ異世界転移と黒幕はセットなのがお約束だけれども」




 自分を突き飛ばしたのは教室で絡んできた女子たちで間違いない。だが、周囲には女子たちはおろか、人っ子一人見当たらない。



 ──念力(サイコキネシス)



 薄紫のオーラが菫子を覆う。直後、菫子の身体が物理法則を無視して空中に浮いた。周囲の建物よりも高い位置、十分に視線の通る高さまで上昇した菫子は周囲を観察する。目を凝らすと遠くに薄っすらと学校のようなものが見える。




「学校ねぇ」




 良い思い出はない。そもそも学校に代表される有象無象が群れるような場所を菫子は嫌っていた。彼女にとっては友人も他人も等しく自身を衆愚へ貶める存在だからである。だが、そうも言ってはいられない。プライドも大事だが、衣食住の方が重要だ。

 学校か否かを確かめる必要がある。空中を滑るように移動し、建物より少し離れた場所にふわりと着地する。校門の前に居た女性からギリギリ見えない位置だ。




 「すみませーん、ちょっといいですかー?」




 女性に声をかける菫子。女性は菫子と同じくらいの年齢でフリル調の巫女服を着ている。金髪を大きなリボンでくくっており、気弱そうな表情をしている。




 「新入生の方ですね、ご案内します」




 菫子の手を握り、走りだす女性。


 菫子は困惑した。


 校門をくぐり抜け、学生寮を通り過ぎ、体育館らしき建物を目指して一目散に走る女性。




 「ちょっと!? 説明の一つもないんですかッ!?」




 我に返った菫子が叫ぶ。




 「すいませんッ!」




 慌てて立ち止まり、謝罪する女性。菫子は握る手を振りほどき、質問する。




 「私は宇佐見菫子、あなたの名前は?」


 「冴月麟(さつきりん)と申します」


 「凄い勢いでしたけど?」


 「新入生の入場時刻が迫っているんです」




 どうやら、麟は菫子を新入生だと勘違いしているらしい。誤解を解こうとした菫子だが、あることを思いつく。




 「式の会場はあそこの建物ですか?」


 「ええ。もうすぐ式が始まります。急ぎましょう」




そういって菫子と麟の二人は走り出し、式が行われる体育館へと飛び込む。両隣が空いている座席を見つけ、腰を下ろす菫子。しばらく待っていると背の高いウェーブのかかった金髪の女性が壇上に現れた。




 「変わった服装ね」




 道士服とウェディングドレスを足して割ったような服装の女性は柔らかい声で八雲紫(やくもゆかり)と名乗る。髪と同じ色の瞳は優しげではあるものの、どこか作り物めいた不気味さを感じさせる。まるで吸い込まれるような、感情の読み取れない不思議な瞳だ。いたいけな少女のようでもあり、妙齢の女性のようでもある掴みどころのない雰囲気。菫子は無意識に壇上の紫を警戒する。




「続けてランカーによるエキシビションマッチを行います」




 それと同時に空中に展開されたディスプレイに二人の女性が映し出された。この学園では個人が持つ「魔導」を鍛え、使いこなすために「ランクマッチ」と呼ばれる摸擬戦が日常的に行われているらしい。

 一人は小学生くらいの背丈でフリルのあしらわれた可愛らしい服装をしている。サイドテールにまとめた美しい金髪と血のように赤い瞳が特徴的で口元には柔らかい微笑を浮かべている。透き通るような白い肌と合わせて人形のようだ。

 もう一人の女性は紺のブレザーと白のインナー、赤のネクタイとメリハリの利いたツーピース制服が特徴的だ。地面まで届きそうなロングヘアは薄紫で隅々まで手入れが行き届いている。口元は固く結ばれ、深紅の瞳は相手をまっすぐに見つめている。

 二人は見た目だけでなく、雰囲気も対照的だ。金髪の女性はミステリアスな雰囲気であるのに対し、紫髪の女性は軍人のような雰囲気を纏っている。




 「フランさんと鈴仙さんのお二方は共に上位ランカーです」




 そう言いながら麟は菫子の横の席に座る。




 「ランクマッチとランカーねぇ」




 ──初等部四年『フランドール・スカーレット』


 ──高等部三年『鈴仙(れいせん)優曇華院(うどんげいん)・イナバ』




 準備はいいですか、とマイク越しに確認する紫。二人は紫の問いかけに対して首を縦に振る。それを見た紫は満足げに頷き、試合開始を宣言する。

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