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秘封俱楽部活動記録 ~Last Occultician~  作者: 伽藍堂本舗
第二章『騒音塔は眠らない』
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レイラ・プリズムリバー

 没個性な衣装が一周回って個性を主張している。絵に描いたような紅白の巫女衣装。頭には大きな赤色のリボンをつけている。トントンと手にした御幣で肩を一定のリズムで軽く叩きながら焦げ茶色の瞳で辺りを見渡す。その女性の持つ傲岸不遜で横暴さすら感じさせる雰囲気が場の空気を支配する。


 菫子は他人が怒られているすぐ傍にいるような緊張感を感じながら、そっと目だけを動かして魔理沙の様子を伺う。魔理沙は先ほどまでの勝ち気な様子が一変し、バツの悪そうななんとも言えない表情を浮かべていた。


 周囲を観察し終えた女性は答え合わせをするように菫子と魔理沙をちらりと見る。二人を見て何かを確信したらしく女性はため息をつく。同時に女性の身体が上から紐で引っ張られたようにスッと地面から離れる。次の瞬間、女性がロケットのように勢いよく上昇する。


 「飛んだ!?」


 思わず叫ぶ菫子。女性は一切の迷いなく上を目指して飛翔。あっという間に菫子と魔理沙の視界から消失した。ほんの数十秒で最上階へと到達した。


 「あなたは?」


 最上階に残り、プリズムリバー三姉妹の演奏を聴いていた麟は女性に問いかける。話しかけられるまで気付いていなかったのか、女性は少し驚いた様子を見せる。しかし、すぐに無愛想な表情に戻り、短く答える。


 「私は霊夢。探偵よ」


 ──博麗探偵事務所、オーナー。博麗霊夢。


 霊夢と名乗るその女性は懐からそう書かれた名刺を取り出し、無造作に麟に渡す。もっとも、「渡す」と言うよりは「投げ捨てた」の方が表現としては近い。ひらひらと宙を舞う名刺を上手くキャッチした麟は書かれた文字に軽く目を通し、ポケットにしまう。


 「あんたが冴月麟?」


 文法上こそ疑問形ではあるものの、事実確認に近い声色で尋ねる霊夢。


 「ええ、わたしがそうです」


 訊かれるがままに質問に答える麟。麟の返答を聞いた霊夢は三姉妹の方を一瞥する。


 「この塔から出るには演奏を聞き届ければ良いワケ?」


 こともなげに満点の解答を出す霊夢。麟は驚きながらもそれを肯定する。すると霊夢は手にした御幣を三姉妹へと突きつける。


 「〆た方が早いんじゃない?」


 「方法は分かっているんです。暴力に頼る必要はないのではないでしょうか?」


 そう霊夢を説得する麟。


 「それに私たちの目的はこの塔の調査です」


 この塔について何も知らないまま脱出をすることに意味はあるのでしょうか、麟はそう言葉を続ける。霊夢は少し悩んだ末に御幣の先を地面へ向けた。


 「じゃあ、とっとと聞き届けましょ」


 「はい」


 そうして沈黙の中、三姉妹の演奏が始まった。麟は奏でられる音色に聞き惚れていたが、霊夢はけだるげにしている。そうして二人は三姉妹の演奏を聞き終える。


 「終わったわね。じゃあ、話して貰おうかしら?」


 やっと本題に入れるからか、やる気を取り戻す霊夢。麟は三姉妹と霊夢を交互に見て不安そうにする。演奏を終えた三姉妹はペコリ、と一度だけお辞儀をし、語り始めた。


 「まず、私たちには妹が居たの」


 「レイラ・プリズムリバーね」


 「ええ、この塔に幽閉されたレイラは姉たちの姿を模した騒霊を生み出したわ」


 「それがあなた方ということですか?」


 「その通りよ。この塔が決して壊れず、中から出られない理由もそれのせい」


 押し黙る麟。しかし、霊夢は遠慮することなく話題を掘り下げる。


 「レイラが幽閉された理由は魔導のせい?」


 「……ええ」


 「ちょっと待ってください! なんで魔導とレイラさんの話が繋がるんですか!?」


 耐え切れず、疑問をぶつける麟。霊夢は冷めた調子で返答する。


 「昔は魔導に対する差別が酷くてね。幽閉や殺害が日常的に行われていたの」


 お上にとって都合が悪いのか学校じゃ教えないけどね、と腹立たしげに付け加える霊夢。そして、視線を再び三姉妹に向ける。


 「事情は理解ったわ。で? どうすれば出られるわけ?」


 「演奏を聴き終えたのなら好きに出られるわ」


 「そ。じゃ、これ以上の調査も必要ないワケだし出させてもらうわ」


 「そうですね。レイラさんの墓標に等しいこの塔に居座るのは良くないですし」


 霊夢たちの口から明かされたレイラや魔導についての真実がショックだったのか、歯切れの悪い返事をする麟。既に霊夢は床をすり抜けて階下へと降りてしまった。残された麟。


 「演奏は終わらないわ。私たちが居る限り、鎮魂は終わらない」


 「そう、ですか」


 三姉妹に別れを告げ、麟は独りで階段を一段ずつ下ってゆく。

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