魔法使いVS超能力者
白黒の魔法使いと菫色の超能力者。
二人が同時に動く。菫子は周囲に転がっていた家具を瞬間移動で魔理沙の頭上に転移させる。家具が転移すると同時に菫子と入れ替わる魔理沙。位置を入れ替えられた菫子の頭上から先ほど転移させた机が落下してくる。落下してくる机を念力で受け止める。そのまま、魔理沙の方に投げつける。魔理沙に向かって飛んでいく机。魔理沙は冷静にタイミングを見計らう。距離がある状態ではさっきと同じように回避されるだろう。魔理沙は机を回避できないギリギリまで引きつける。ぶつかる寸前、菫子と入れ替わる。同時に菫子も瞬間移動を発動。魔理沙は元の位置に戻される。
「ぐえッ!?」
飛んできた机と盛大にぶつかる魔理沙。だが、リアクションの大きさ対してダメージはほとんどない。軽く肩を動かしたり、身体を捻ったりして身体の具合を確かめる魔理沙。それらの動きを油断なく観察する菫子。菫子にとって瞬間移動は数ある超能力の一つに過ぎない。引き出しの多さは魔理沙よりも自分に分があると考えていた。
「入れ替え以外も出来るみたいだな」
「瞬間移動しか使えないと言った覚えはないわ」
「そうかい」
魔理沙は眉をしかめる。魔理沙の魔導は菫子の超能力と違い、「交換」しか出来ない。そのうえ、相手の内臓を全て他の物体と入れ替えるようなことも出来ない。相手に直接干渉することができないのだ。どうしたものかと魔理沙は考えを巡らせる。あくまで目的は依頼の達成。つまり、麟の確保だ。
「あんたじゃ私には勝てない。大人しく降参したら?」
菫子は強気に挑発する。無論、魔理沙が本当に降参するとは思っていない。目的はあくまで時間稼ぎ。麟が演奏を聞き終えるまで耐えればいい。魔理沙が挑発に乗って依頼主や自分の能力についてペラペラと喋ってくれれば音の字だ。
「依頼を受けてる以上、そういうわけにはいかねえな」
次の瞬間、魔理沙はスカートのフリルに隠していたガラス製の串を投擲する。見えない凶器が菫子を襲う。念力は対象を目視していなければ使えない。瞬間移動による位置交換も一度見せている。新しい手札を切らざるえない。菫子は小さく舌打ちし、羽織っていたマントで串を絡めとる。
「弾けろ」
魔理沙は箒の取っ手の先端にあるボタンを押す。爆発するガラスの串。勢いよく飛び散るガラス片がマントを切り裂く。菫子は反射的に腕で顔を覆う。さらに発火能力を発動。高温によって細かなガラス片が溶け落ちる。だが、大きな破片は解け切らず、菫子の身体を切り裂く。一瞬で切り傷だらけになる菫子。
「驚いた。炎まで出せるとは」
手札の多さに感嘆の声を上げながらビー玉を取り出す。それらを天井に向けて思いっきり投げ上げる魔理沙。ビー玉が十分な高さまで上昇したのを確認すると入れ替わる。魔理沙と入れ替わったビー玉が床を転がる。魔理沙は入れ替わると同時に箒の取っ手を下に向ける。一瞬だけふわりと浮遊感を感じる。直後、重力に従って落下する。箒の先端を菫子に向け、急降下する魔理沙。
「念力ッ!」
「それじゃ止められないぜ」
魔理沙は落下しながら器用にポケットを開ける。落下するビー玉。それらと入れ替わることで念力を空振りさせる。止められないことを察した菫子は大きく横に跳び、回避する。だが、魔理沙にただの回避は通用しない。地面とぶつかる寸前、菫子と入れ替わる。
「がはッ!?」
地面に叩きつけられる菫子。骨が軋み、悲鳴を上げる。肺の空気が全て吐き出され、呼吸が一瞬だけ止まる。確かに魔理沙は菫子に手数で劣っている。それは間違いない。だが、鉄火場で磨かれた判断力。様々な依頼をこなす中で身についた対応力。機転で乗り越えた危機の数。自身の魔導や戦闘そのものに対する練度の高さが菫子とは桁違いなのだ。
「あまり大人を見くびるなよ」
帽子を深く被りなおす魔理沙。言葉にならない声で呻く菫子。最上階へ移動しようとする魔理沙。だが、気配を感じて振り返る。
「おいおい」
目に映ったのはボロボロだが、確かに両の足で立つ菫子の姿。
「一般人をいたぶる趣味はねえんだがなぁ」
そう言いつつも戦闘態勢に入る魔理沙。思考を巡らせる菫子。だが、痛みのせいで思考がまとまらない。
「ん? 魔理沙じゃない」
出入口をすり抜けて現れたのは紅白の巫女だった。




