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秘封俱楽部活動記録 ~Last Occultician~  作者: 伽藍堂本舗
第二章『騒音塔は眠らない』
13/53

探索その1

 ──開かない。


 ピクリとも動かない。可動部が錆びついて固着しているのだろうか。


 ──念力(サイコキネシス)


 「ダメみたいですね」


 「……私の念力(サイコキネシス)は鉄塔すら動かせる。それで動かないということは」


 そう言いながら菫子は地面に転がっていたこぶし大の石を拾い上げる。重さを確かめるように軽く投げ上げてキャッチすると野球のピッチャーのように振りかぶる。位置を調整した菫子は思いっきり腕を振り切る。菫子の手を離れた石は勢いよくガラス窓にぶつかり、跳ね返って地面に落ちた。地面を少し転がると運動エネルギーを失い、停止した。


 「やっぱりね」


 そう言いながら菫子は手に付着した砂粒をはたき落とす。麟はガラス窓に駆け寄り、強めに叩いてみるが鈍い音が鳴るだけだった。


 「魔導による防御壁ですか?」


 「恐らくね、そんなことが出来るのかは知らないけど」


 「確かに不可能ではありません。不可能ではありませんが」


 「ともかく、違う方法を試すわよ」


 ──瞬間移動(テレポーテーション)


 麟と菫子の姿が画面にはしるノイズのように一瞬だけブレる。閉じていた目を開けると血の気のない石造りの部屋が広がっていた。


 「点と点を入れ替える瞬間移動(テレポーテーション)は無効化できないみたいね」


 演奏は相変わらず、上階から聞こえている。ただ、塔の内部は気密性が高いようで外にいた時よりもはっきりと演奏が聞こえる。石造りの部屋であることしか分からなかったが、薄暗さに目が慣れてくると部屋が思ったよりも大きいことに気づく。

 窓から見える景色からして塔の一階部分で間違いないようだ。少なくとも、時間や空間は外部と変わらないらしい。


 「どうかしましたか?」


 窓の外を眺める菫子を見て麟が声をかけてくる。別に、と言って窓から離れて辺りを見渡す。やけに広く感じるのは物がほとんど置かれていないからだ。家具が置かれていないと表現する方が適切かもしれない。絵画やシャンデリアはあるのだが、棚や机といった家具が全く存在しない。


 「気味が悪いわね」


 あまりにも無機質な空間。生活感がまるでない。遮蔽物がないせいで探索するまでもなく何もないことが分かる。うろうろと部屋の中を歩き回る麟に菫子は二階に行こうと声をかける。


 「もう目も慣れたでしょ?」


 「別に構いませんがなぜ上に?」


 「今のところ一番怪しいのは演奏が聞こえてくる上でしょ?」


 いかにもな羊皮紙に地下室の存在を仄めかす暗号が書かれてるなら別だけどね、と言いながら菫子は入口のドアの反対側に見える階段へ歩いていく。麟は小走りで菫子へ追いつくと速度を緩める。


 「腐ってないか心配だったけど杞憂みたいね」


 階段が木製ではなく、石製だということに気づいた菫子はそう言ってからそっと石段に足を乗せ、徐々に体重をかけて行く。安全を確信した菫子は一段一段踏みしめるように登っていく。同じように麟も菫子の後ろから石段を上る。

 一階から二階へ続く階段を真ん中あたりまで上った菫子たち。突然、壁に掛かっていた絵画が菫子の頭上に降ってきた。避ける菫子。菫子が避けた直後、絵画は物理的にあり得ない軌道で回避先に落下する。

 菫子は瞬間移動(テレポーテーション)で回避しようとするが発動しない。すぐさま、念力(サイコキネシス)に切り替えて直撃を免れる。


 「無事ですかっ!?」


 「なんとかね、けど瞬間移動(テレポーテーション)が発動しなかった」


 「それってつまり」


 「ええ、この塔に閉じ込められたわ」


 状況を説明しながら駆け足で階段を登る二人。二階へ飛び込む。そこでは大小様々な無数の家具が不規則な軌道で浮遊していた。

 

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