中華内戦
序章
2024年、この日、南京市の市場は特売日だったこともありたくさんの人でごった返していた。農民の格好をした人や豪華な格好をした人まで様々な人が買いに来ていた。少しクセのある田舎くさい中国語が飛び交う市場は灯りが少なく、昼なのに少し薄暗くその様子は 都会っぽさよりも田舎っぽさが勝っていた。
「しゃがめー!」
突然だれかの大きな声が市場の中に響き渡った。買い物客は何が起こったのかわからずその場に立ち尽くす。その瞬間に耳鳴りのような大きな音が上空から迫ってきた。爆発音が鳴り響き、砂煙と爆風が市場中を埋め尽くした。飛び交う悲鳴と親を呼ぶ声。一瞬にして平和な市場が地獄絵図と化した。
死者は352人。負傷者835人。爆弾は、市場の東側入り口に落ちておりそこに死者は集中していた。散乱する果物や野菜と床に広がる地の海でついさっきまで平和な市場が広がっていたとは思えないような惨状だった。
穴の開いたとたんの天井の隙間から太陽の光に輝いた中華民国軍のマークが見えた。
第一章:戦争の序章
「趙さん、体調の方はいかがですか?」
国立天津大学病院で働く李文はいつも通り朝早くに402号室にいる趙俊英に挨拶に行った。
「いつも通りだ。街は違うみたいだがな。」
と、彼は少し変な答えたかをした。李は病室の窓から大気汚染で霞む街を見下ろした。特に変わらないいつもの天津が広がっている。空を見上げると台風が迫っているせいもあるのか、曇っているように見える。
しばらく外を見ているとポケットに入れっぱなしだった電話が大きな音で鳴った。
「はいもしもし。急患ですか。今すぐ行きます。」
趙に軽く会釈をして病室を飛び出た。1階に駆け降りていくとロビーに凄まじい数の人が横たわっていた。数人の男女が横たわる人たちに寄り添って泣いている。
立ち尽くしていると院長が駆け寄ってきた。
「北京郊外の市場で空爆があったらしい。その犠牲者だ。昨日の南京と一緒だ。」
昨日、南京でも同じような事件があった。国籍不明の軍隊の航空機により昼間の市場が爆撃される事件だ。数百人の犠牲者が出た。
「今日は、チベット軍だったらしい。北京の病院にいる生存者からの情報だ。」
院長が話し終わったと同時に病院に中国軍の軍人が3人ほど入ってきた。受付嬢が対応に当たる。生存者の確認を取りに来たらしい。軍人は生存者に話を聞くと指先で院長を呼び何かを少し話したあと足早に帰っていった。今日は忙しくなるぞ、と耳元で囁くと院長室へと帰っていった。
翌日、目覚めたのは病院の空き部屋だった。前日帰るのを忘れて寝てしまったらしい。書類が散乱している。寝ぼけた目を擦り、腕時計を覗き込む。正午をまわっている。カーテンを開けると眩しい日差しが飛び込んできた。少し眠いが体を起こして病棟へと向かった。
昨日と変わらず、ロビーには負傷者が横たわっている。死者は集団墓地へと運ばれたらしい。重傷者は北京の大きな病院へと輸送されたため昨日よりは少なくなっている。
ロビーから職員室へと入るとテレビがついていた。
『中華民国とチベット・ウイグル・内モンゴルは今朝、中華人民共和国政府に対して宣戦布告を発しました。』
ついに、恐れていた事態が起こった。こうなるといつこの病院が攻撃されるかわからない。
いつの間にか、手の震えが止まらなくなっていた。
2024年、チベット臨時政府ラサ市近郊ラサ軍基地。大粒の雨が飛行場を濡らしていた。
雨で霞む中、戦闘機の前照灯が幻想的に見えた。これからこの飛行機で戦場に行く。毛文英は10年間人民解放軍の兵士として飛行機に乗ってきたがこんなに緊張して飛行機に乗ることはなかった。横を見るとたくさんの飛行機乗りが一列に並んでいる。これからこの中の何人が死ぬのだろうか。何人が生き残るのだろうか。考えるだけでもゾッとした。
全員が集まると、司令官が話し始めた。
「本日、重慶の天気は曇り。低い雲が広がっている模様。重慶を空爆後、分隊ごとに指定の航空基地へ着陸すること。では、幸運を祈る。」
話が終わると、敬礼をし自分の戦闘機へと飛び乗った。機器の確認を済ましエンジンを始動する。耳鳴りのような高い音が後方からし始め、コックピットの温度が少し上がる。エンジンの音で雨が叩きつける音はかき消された。いつも通り家族写真を写真置きへと立てかけたところでちょうど出発の合図である白旗が上がった。いつも通りの離陸の作業だがとても 緊張する。
「いつも通りやるんだ、毛。いつも通りでいいぞ。」
ヘッドセットから林分隊隊長の声が入った。狭くなっていた視野が一気に広がった。緊張がほぐれた気がした。司令官に敬礼をしたのち、離陸をした。上昇中に振り返るとラサの街が一望できた。夜遅いこともあり灯りはそこまでついていない。上昇するにつれて暗闇の中に消えていく街を見てチベット軍人としての国防意識が初めて芽生えた気がした。
「第3分隊、聞こえるか。気分は良好か。分隊長の徐建明だ。私たちは重慶を空爆後、上海基地へと着陸する。第1分隊についていってラサに戻らないようにしろよ。」
分隊長の冗談の後に続いて隊員の笑い声がヘッドセットの中から聞こえてきた。
40分ほど飛ぶと、重慶の街が暗闇の中に見えてきた。大きな街だ。重慶の向こうに見える大きな街は成都だろう。
今回の攻撃は4分隊に分かれており、1分隊から順番に攻撃をしていく。暗闇に包まれた重慶では爆発で上がる炎が一層明るく見えた。
ついに、自分たちが空爆をする番がきた。自分の放つ一発のロケット弾で何人が死ぬのか、想像するべきではないのだろうがどうしても想像してしまう。暗闇の中に人が逃げ惑っているのだろうが、いくら目をこらしても見えない。ただ、暗闇の中にロケット弾を発射していく。地面に接近した時、爆発の光に照らされて上を見上げる重慶市民が見えた。
その後、上海の基地へと着陸したが重慶で見た人々を忘れられなかった。
上海の基地へついた頃には太陽が昇り始めていた。太陽を見ていると分隊長に呼ばれた。
「今日の昼に重慶へと偵察に行こうと思うのだが同伴するか?」
私は、二つ返事で承諾した。後になって後悔したのだが、行くことにした。
同日、天津大学病院。李文は重傷者の治療にあたっていた。重傷者は北京の近くで最大の市場だったこともあって、農民から政府官僚まで様々な階級の人がいた。
血で汚れたタオルを洗っていると、遠くから甲高い音が聞こえだんだんと近づいてきた。音はこの病院に近づいてきている。通りすぎていった後に金属音が鳴り響いた。同時に、院内の電気が全て消え真っ暗になった。明かりを確保するために窓を開けると、天津の空が戦闘機と爆撃機に埋め尽くされていた。太陽の光に反射してよく見えないが中国軍ではないことは確かだった。
「ありゃ、モンゴル軍の爆撃機だなぁ...」
「周さんわかるんですか。」
「そりゃあ、おらは去年まで軍に所属してたからな。わかるよぉ」
爆撃機に見惚れていると、腹の部分から何やら細かい物体を落としている。
「爆弾....爆弾落としてるぞ、あいつら。すぐに避難させろ。」
周さんが大声で叫ぶ。蝋人形のように固まっていた人たちが一斉に動き出した。
「ほら、李さんも動かんとここにいる患者ともども死んでしまうぞ!」
いつもは広東語で喋る周さんだが、この時ばかりは標準語だった。それだけ状況が逼迫しているのだ。全員を地下室に運び込む。こうしている間にも爆弾の落ちる音は迫る。人生で初めて無差別爆撃というものを経験した。
全員を運び終えた後に病院に爆弾が落ちた。
「去年の年初めの頃だな...米軍で使わなくなったB-52をモンゴル軍が買収したんだ。爆弾なんて買うお金ないと思ってたんだがなぁ。」
周さんが話している時に誰かがテレビをつけた。予備電力が残っているのだろう。テレビからは衝撃的なニュースが流れた。
『本日未明、我が国の国家主席荘凱孟氏がロシアのライボルフ首相と電話会談をしました。会談後の記者会見で荘凱孟氏はロシアからの戦争支援の同意を得られなかったことを発表しました。』
地下室がざわざわし始めた。ついに中国はアジアから孤立した。その後のニュースは続く。
『チベット・ウイグル・内モンゴル・台湾・上海・マカオ・香港・満州は中国独立革命軍を組織し、モンゴル・韓国・ビルマ・タイ・インド・カンボジア・ラオス・ベトナムが協力することで合意しました。続いて....』
これで、周りの国が全て敵国になったということが明らかになった。
第二章:戦争への突進
中華人民共和国荘凱孟国家主席は中南海で絶望の淵に立たされていた。北朝鮮を除いて陸で接している国は全て敵に回った今、負けを待つしかない。北朝鮮が頼りにならないことはわかっている。しかし、頼らざるを得ない状況であることが皮肉でしかない。ただ、中華人民共和国のプライドを保つためにも交渉をできずにいた。荘は頭を抱えた。ついに、一つ残された光に手を伸ばすか、それとも自力で解消するか。その二択だった。
ドアがノックする音が聞こえた。入れ、と声をかけると蔡奕辰総理が入ってきた。
「電報です。ロシア政府より先日の戦争協力に関する申し出の返答です。」
首相から渡された紙には真ん中に大きく協力不可の4文字が綴られていた。その紙を見た瞬間視界が真っ暗になった。
「蔡君、これは実際にロシアから来た返答かね?別の第三国とかでは....」
「ありません。実際にロシアの外務大臣スレーニン様から頂いた電報です。」
絶望という2文字が荘の正面に立ちはだかった。
その時、蔡総理が出ていくのと入れ替わりで梁国防部長が入ってきた。
「失礼します。先程、南沙諸島方面から国籍不明の船団が海上国境を超えて中国領海内へと侵入したことため、確認のために哨戒艇を送りましたが....」
続きは大体予想できた。我が人民解放軍の海軍は他国の船を領海に入れるなどということはありえないのだ。哨戒艇の接近に恐れ慄いて船首を反対に向けて逃げて行ったに違いない。
「哨戒艇との連絡が香港沖630km地点で途切れました。現在軍事委員会で海軍の出動を荘国家主席に求めている状況です。早めのご判断をお願いします。」
予想外の話だった。国籍不明の軍隊に対して海軍を派遣すれば大量の兵士を失う可能性がある。しかし、派遣しないと大量の国民が死ぬかもしれない。
「海警を派遣しろ。できるだけ多くだ。」
梁部長はわかりました、と一礼して出て行った。
「現代版海の民...か。」
一人になった部屋で彼はぼそっとつぶやいた。
場所は変わって、香港沖790km地点。シンガポール海軍とスリランカ海軍の合同艦隊が中国本土へ向けて北上していた。スリランカ海軍のイージス艦キャンディを旗艦にして10隻の艦船で構成されたこの艦隊は10隻のうち6隻がイージス艦である。指揮を取るのはシンガポール海軍所属のリー・チェン大将である。
「あれが、南沙諸島か。でかいゴミを作ったもんだな。」
中国は2023年の初頭に南沙諸島で起きたインフルエンザの集団感染により完全にここを見放した。今でも島内に人は残っているようだが支援物資や医療資材などの供給は止まっており完全なるゴーストアイランドになっている。
ふと時間が気になり時計をのぞきこんだ。朝の6時43分。
「リー艦長。昨日の越境許可申請の件ですが、香港政府から返答が来ました。」
「なんと言われた。」
「越境許可がおりました。これより、7時30までに越境します。」
リーは小さく頷いた。それを見て、通信士は管制室へ戻って行った。
ほとんど波のない平和な南シナ海を大きな鉄塊が進んでいく。見渡せば珊瑚と青い海。青というよりも水色に近い海だ。海に見とれていると、突然の大声で現実に戻された。
「正面より、漁船が接近!中国船籍です!」
ついにきた。哨戒艇だ。数人の乗組員が甲板に出ているのが見える。段々と近づいてくる。そのまま、横にピタッと付けた。
「どうした!」
何かを言っているが中国語なのでわからない。ただ、乗せて欲しいとジェスチャーしているようには見える。船内を見るが武器もなく食料もあるような様子はない漁船に四角い小屋のついたような船だ。
リーは数人に武器を持たせて甲板に集めた。網を下ろし、船に乗せる準備をさせる。
上がってこいと身振り手振りで合図するとぞろぞろと船に上がってくる。軍服を着ている者もいればトーガのようなボロボロの服を着ている者もいる。
船に上がると、甲板にいた海兵が身体チェックを行った。
そのうち、身体チェックが終わり、中国語を話せる兵士から報告が来た。
「武器を持ち合わせている者はいません。爆弾のチェックも行いましたが持っていませんでした。」
「そうか。ご苦労だった。では、持ち場に...」
「実は彼らからお願いをされたんです。哨戒艇を壊してくれとのことです。」
リーは少し俯くと、頷いた。10分後に、哨戒艇は轟音と共に珊瑚の海へと沈んでいった。
哨戒艇を爆破した以上、必ず敵は来るとリーは予想していた。少し迷ったのもそれを恐れていたからだ。なるべく船や仲間を失いたくないという感情が彼の中には確かにあった。
中国海警所属の漢級巡視船長安は一隻で南シナ海を南下していた。中国海警は国籍不明の艦隊の確認のために海警局所属の船舶を募集したがほとんどが破損または破壊によって航行不能状態であり航行可能の船も乗組員が足りない状態だった。最終的に長安しか動ける船がいなかったのだ。
「王艦長。レザーのデータですが今のところは敵艦隊は発見できていません。」
通信士が喋り終わると、艦長の王了英はもう戻って良いと指先で合図した。
この船には、3年前に着任した。当時は活気あふれる若造ばかりであったがしばらくしてから部隊再編が行われ少しばかり老人が増えた。老人と言っても自分よりも若いのだが...
この船に着任した頃に艦長室に置いてある船舶更新履歴を確認した。最後の更新工事は1995年だった覚えがある。すなわち、レーダーも1995年製である。30年も前のレーダーがしっかり動くとは思えない。今日の任務も大丈夫だろうか...
レーダーはしっかりと艦隊を捉えてくれた。イージス艦級が6隻と商船級が4隻だ。向こう側もこちらを捉えたのか進路を少し変えた。しかし、このレーダーで捉えきれないものがこちらに向かっていた。
「艦長!ロケット弾です!命中コース!撃墜不可能です!」
このレーダーの仇だった。あまりにも早い速度で移動するものを捉えられなかった。
体が中に浮いた。そのまま、壁に叩きつけられた。警報音が鳴り響く。そのまま意識が遠のいていく。もう、死ぬのか。そう思った。
「王さん!王さん!聞こえますか!」
呼ばれた気がして目が覚めた。周りを見ると5人ほどに囲まれている。
「誰ですか。」
「私たちは、海上自衛隊の者です。安心してください、敵ではありません。」
話を聞くと、シンガポール・スリランカ連合艦隊によって攻撃を受け、海の上で気絶しているところを救助されたらしい。
意識がはっきりとしてきた。起きあがろうとすると背中が痛い。壁に叩きつけられた時に痛めたのだろう。起き上がって周りを見渡すと乗組員がベットに寝かせられている。
部屋の中を見回していると、後ろから肩を叩かれた。
「護衛艦はつゆきの艦長の海野と申します。」
海野艦長は頭を下げて一礼すると話を続けた。
「船員は全員救助いたしましたが、3人がお亡くなりになられました。」
自分の中に浮かんだ気持ちは3人もではなく3人しかだった。海警局職員であれば3人なら書類報告のみで済ませるだろう。しかし、自衛隊職員はしっかりと艦長に言葉で報告している。まるで我が国のことのように。少し感心している自分がいた。
「この船は、明日の朝には舞鶴に到着します。それまで、お休みください。空腹でしたら、下の階に食堂がありますのでぜひ。」
言うことを言うと艦長は去っていった。
空腹よりも眠さが勝ってしまったのでそのまま寝落ちてしまった。
第三章:陸上戦の開始と派生
炎天下の重慶では市中銃撃戦が行われていた。逃げ切れなかった市民が地面に倒れ、数回にわたる空襲により道路がめくれあがり、広がっていたマンション群はほとんどが倒壊していた。
銃声と悲鳴が街中に響き渡り、血の海がそこら中にできていた。
このとき、重慶はすでに包囲されていて中国軍には中華民国軍から降伏推奨令が出ていた。
しかし、中国軍は3日ほど重慶での防衛戦を繰り広げている。ただ、中国軍にも限界が来たようで4日目に中国軍が拠点としている重慶陸上貿易センターに東トルキスタン軍が突入した。突入したときには内部にいた軍人はほぼ死亡している状態で司令室に数人残っているのみだった。
その後、中国独立革命軍は東へと進軍し西安を撃破した部隊と合流した。合流後に長沙へと入ったが、すでに中国軍は長沙を捨て武漢へと撤退した後で街はもぬけの殻だった。
長沙を占領した時点で、成都や昆明などの大都市は全て陥落し西部地域は独立革命軍の手に落ちた。
朝鮮半島からの不穏なニュースが入ってきたのは長沙が陥落してすぐ直後のことである。
『大韓民国が朝鮮民主主義人民共和国に対して宣戦布告を行いました。』
軍用ラジオからそんな一言が軍人の元に聞こえてきた。その瞬間に場が凍りつく。第二次朝鮮戦争の始まりだと全員が思った。ただ、この戦争はここにいる全員が思うよりもさらに上へと状況が進んでいくのである。
1週間前に行った満州遠征で、北朝鮮軍は韓国軍から宣戦布告を受けることになってしまった。文政権の頃はこんなことにならなかったのだろうが、2022年に政権交代が行われ親日過激派政権へと移行したためにこの様な状況になってしまった。
ここから、朝鮮半島はカオスを極めていくことになる。
戦争開始から2週間後に平壌が陥落する。このスピード陥落の裏には北朝鮮軍の衝撃的な満州遠征計画があった。
朝鮮軍部省は満州遠征の2ヶ月前に労働党に対して満州遠征計画書を提出した。その内容はこの様なものだ。
・朝鮮人民軍の1/2を派遣し、満州国を降伏へと追い込む
・満州国の陥落までに4ヶ月を要する
・大韓民国の反撃への対応については残留部隊を南部へと集中させ、防ぐ
内容としては問題があるが、これが労働党の軍会議において通ってしまった。これだけなら問題ないのだが、実際に満州に派遣された軍人の数は全体の2/3。これにより、本土の防衛能力が失われ、平壌がスピード陥落してしまったのだ。
韓国軍はそのまま北上し、北朝鮮を清津まで追い込んだ。
第二次朝鮮戦争の最後に行われた、清津の戦いは壮絶なものだった。
清津には戦闘が起こる2週間前から韓国軍による空襲や空爆が行われ、軍に関する施設や国家の行事を行う施設とみられる建物が集中的に破壊された。2週間で24回の空襲や空爆が行われ、韓国軍が突入した頃には市街地を残して焼け野原が広がっていた。
戦車部隊が清津に突入し、戦車に向かって発砲する北朝鮮軍人を片っ端から砲撃して市民会館方面へと進撃していく。戦車に踏まれた家はおもちゃの様に潰れてしまう。
戦車部隊は通った後ろを歩兵部隊が歩き、残った伏兵を殺していく。
ついに、戦車が市民会館の前で止まった。拳銃を持った男が市民会館のドアを蹴破って開ける。そこには、スーツ姿の男に囲まれた北朝鮮の最高指導者の姿があった。痩せ細り、ニュースで見た様な太った男ではなかったが顔はそのままだ。
韓国軍はスーツ姿の男を全員捕らえ、拳銃を持った男が椅子に座ったまま沈黙する将軍の頭に拳銃を突きつけた。
「独裁者の終わりとしてはふさわしいかもな。」
といい、将軍は少し微笑んだ。それが最後の言葉となった。拳銃の引き金が引かれ、将軍は椅子から崩れ落ちた。ついに、朝鮮半島に平和が訪れた瞬間だった。
第二次朝鮮戦争は実に2ヶ月で終わりを迎えた。
その後、韓国は誰もが予想しない方向へと進んでいく。
長沙を陥落させた独立革命軍は南京へと進軍を開始した。合肥でも戦闘が繰り広げられたが大きいものではなく、すぐに決着がついた。
そしてついに、山賊の中国軍との全面戦争が始まることとなる。
東トルキスタン軍の司令官アヘルはこれから始まる中国との全面戦争に少し不安を抱いていた。その不安は謎の不安だった。核爆弾は全て解体済みで使用される心配もなく、戦力的にもこちらが勝っていて負ける心配もない。ただ、謎の不安がアヘルを襲っている。
「どうしましたか?アヘル司令官。心配そうな顔してますが?」
部下のラジャフ少将が話しかけてくれた。
「そうなんだ。何が不安なのかわからないが何か不安なんだ。」
「そうですか。でも、私たちは最強の軍隊です。大丈夫。負ける心配はありませんよ。」
彼は励ましてくれたが、不安はほぐれなかった。
不安なまま時が過ぎ、総合司令室からアヘルの乗る戦車へと出発の号令がかかった。ハッチから顔を出し、手を天へと高く突き上げ、叫ぶ。
「総員、前進!南京を陥とせ!」
戦車と歩兵が動き出した。と、同時に高射砲から砲撃が始まる。高射砲の弾が着弾した場所からは遠くから見てもわかるくらいの煙と炎が上がった。
段々と建物が増え、南京の市街地が近づいてくる。一気に緊張が高まり、うるさかった車内も静かになった。
街の入り口に設置されたバリケードを易々となぎ倒し、中心部へと入った。
中心部へと入るやいなや、銃弾の雨にさらされる。建物の影に隠れていた中国軍が一斉に銃撃を始めたのだ。それに対抗する様に独立革命軍も反撃する。戦車対戦車の砲撃戦も行われ、中心部から少し外れた四つ角は銃弾と砲弾による砂埃で前が見えなくなった。それでも、戦闘は続く。前は見えないが、戦車は少しずつ市街地へと進んでいく。進めば進むほど、銃撃音が近くなってくる。すぐそこまできた、と思ったその時だった。
「撤退!撤退!」
敵軍の誰かが叫ぶ。走る音が聞こえ、その音が遠のいていく。砂埃が晴れ、血まみれで倒れた軍人がそこらじゅうに転がっている。道路は陥没し、バス停は瓦礫と化してしまった。
ハッチを開けて外を見まわそうとした瞬間に無線から誰かが話す声が聞こえ始めた。
「こちらは、中華民国軍だ。ただいま、南京市に到着した。独立革命軍の諸君、到着が遅れてすまなかった。蘇州の陥落に手間取ってしまった。上海軍も一緒だから、安心してくれ。南京はそこまで兵が多いわけではない。無事を祈るぞ。」
中華民国軍と上海軍の合流で南京は泥沼戦をせずに済んだ。2日ほどで司令所が陥落し、独立革命軍は北京へとコマを進めることとなった。
第四章:降伏
天津大学病院ではそろそろ非常食がそこをつきそうだった。500人分を1年間養える分の非常食があったが、ついになくなりそうだ。2025年の正月を迎えた時には空襲の嵐で正月のパーティーもできなかった。もうそろそろ旧正月が来る。
毎日続く天津への空襲は夜以外病むことをしらない。2024年の終わりごろに外を確認した頃には建物が崩れ去り、街も平野になっていた。
旧正月を終えた頃、上から人の声がする様になった。中国語ではない言語がだ。この時から、地下室にいる全員がシャワーを浴びたりテレビを見たりすることをやめるようになった。静かな空間に512人が互いに向かい合い、沈黙の時を過ごしている。
突然、地上への出入り口の鉄扉がノックされた。院長と副院長が地下室に備え付けてある拳銃とマシンガンを手に取り、扉へと向かった。
「誰かいますか?誰かいますか?」
満州語、ロシア語、中国語、日本語、英語と同じ言葉がさまざまな言語で繰り返される。そのうち、言葉が止まり鉄扉にモールス信号が打ち込まれ始めた。院長が鉄扉を叩き返信をする。
「何軍だ。所属と携帯章の提示を求める。」
扉の向こう側が騒がしくなり、扉の下の隙間から軍章と所属表示の手帳が渡された。満州軍の所属で哈爾濱基地からの派遣兵ということがわかった。
「今開けるから少し待て。」
扉の向こうへ向かって副院長が叫ぶと同時に施錠を解除し、重々しいと鉄扉を両手でこじ開けた。光が差し込み、兵士が2人入ってきた。
「何人いるんだ?生存者は?負傷者はいるか?」
質問の嵐だ。院長がひとつひとつに答えていく。数分すると衛生兵が到着して、寝たきりの患者と不自由な患者が運ばれていった。
久しぶりの外だ。階段を上がり、外に出るとそこには焼け野原が広がっていた。もともと病院が立っていた場所は瓦礫となり、満州軍とモンゴル軍の共同野戦病院が展開されている。病院の目の前の大通りは穴が空き、水道管の破裂で水溜りができている。
「安心してください。あなた方の味方です。もう、来週には南部から増援が来ます。あとは北京が落ちるだけです。」
ついに、苦しかった中国が終わると思うと涙が出てきてしまった。
翌日、独立革命軍の到着を待たずに中国共産党が降伏を発表してしまった。政府の官僚は逮捕され、国家主席は自ら命を絶った。長い戦争が終わった。
死者1億人。行方不明者2億500万人。世界最大の内戦は最大の死者を出して終わった。
「李文君。新生中華民国へようこそ。今日から北京大学病院で働いてもらうぞ。よろしくな。」
平和な中国が戻るには時間がかかりそうだが、少し平和が戻ってきた。
最終章:エピローグ
『チベット共和国、東トルキスタン共和国、モンゴル民主主義共和国、中華民国で中華独立国家共栄体条約が締結されました。』
世界中のニュース番組がこのことを報じた。
朝鮮では第二次朝鮮戦争後に各地でテロが起こっていたが、そのうちになくなり2026年に朝鮮共和国が建国された。それと同時に米軍が朝鮮半島から撤退した。
自衛隊の船に救われた中国人の乗組員たちは、中国への帰国を戦後に果たし、故郷へと帰っていったがその後はしらない。
戦時中、海上防衛を行っていたスリランカとシンガポールの連合艦隊に対して、のちに中華独立国家共栄体から感謝の意が示された。
さまざまな国が助け合い、殺し合って戦争は終わった。またいつか、大きな戦争は起こる。その時に、この国々がどのように対処し協力し助けられるかが世界の将来を決める。
「予想できない未来よりも予想できる未来から防ぐことが大切だ。そのためにもこの国は平和でなければならない。」
崔総統の言葉が重く感じた。