クマはサケを内臓から食う。
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今日僕はくまを家に招待する事にした。
くまと言葉を交わせるようになったからだ。僕の言う事はくまに通じるし、くまも僕の言う事を理解するようになった。
最初に交わした言葉なんて至極簡単なもので、僕が釣りをしてた際、彼が突然目の前に現れ「くっ熊だっ!!!」と僕が叫んだところ「いかにもクマですが、何か?」と声が返ってきたのが切っ掛けだ。
続いて僕は「お願いです、僕を食べないでください…」と言葉を発したところ「僕は魚派なんで(人間は)食べませんよ。ご安心ください。」と、実に丁寧な事返ってきた。
そこで僕は、彼が信頼に足る人(いや、クマだ)と判断する事が出来た。立派な紳士だ。クマだが。
僕は助けてくれたお礼(いや、この場合、食べないでくれたお礼という方が適切だろうか?)(いや、考えてみたら食べないでいてくれたのでお礼するってのもヘンな話だが、まぁどっちでもいい)に、我が家に招待しようと僕は考えた。
クマと食事をしながら日々の生活について語り合うのも一興ではないか。
それに僕はクマのその紳士的態度に強く心を打たれたし、これを期にクマと人との親交を深める事が出来れば素晴らしい事ではないかとも思う。
僕は、彼に提案してみた。「どうだろう?もしご迷惑でなければ、これから我が家で食事などいかがでしょうか?誠意を尽くしたもてなしを致します。いかがでしょう?」
彼は快諾した。「ありがとう。ご遠慮なくそのお誘いを受けさせていただくよ。大変光栄です」と彼は続けた。
ただ、僕にはひとつだけ懸念している点がある。それは彼が、オスなのかメスなのかという点だ。声質から考えた場合、恐らくオスではないかと推測はしている。しかし僕が判断基準としてるのは、当然ではあるが、 "人間の声質" だ。人間であれば声が高い=女性、低い=男性と単純に判断する事は可能だが、くまの場合は分からない。オスもメスも同じような声質かもしれない。
とくに目の前にいる方は、「肉は食べない」とおっしゃっている方なので、女性の可能性も十分にあるではないか。
女性に対し、突然家に誘うのは、いささか不躾である。
もし家に誘うのだとしたらマナーとしては、別の友人も誘うなどして、ホームパーティ形式にするのが、無難ではないかと思う。
僕は思いきって、聞いてみる事にした。
「もしかしたら失礼な質問になるかもしれないが、性別を教えていただけないかな?もし女性だとしたら、突然家に誘うのは失礼に値すると思う。なにぶんくまの方とこうして接するのは初めてなので、性別までをすぐに区別する事ができないもので…。失礼な質問かもしれないが、ご気分を害さないでいただきたい…」
するとくまは、はっはっはっと照れ笑いを浮かべ、
「大丈夫、君と同じオスだよ。多少華奢で小食ではあると思うが、十分立派なオスだ。そうだよね、確かに初めてのくまに対して突然性別の区別までをつけるのは難しいかもしれないよね」
と彼は続けた。
僕は彼の余裕のある受け答えに、より一層の親近感を感じた。
精一杯、もてなしをしよう。
◆道すがら
彼と会った場所から僕の車までは約2キロ。道すがら、いろいろ世間話をした。
「このへんの道はよく通るの?」とかそんな質問。くまは「うん、わりとよく通るかな?」とか、そんな感じ。
「やっぱ鮭が好きなの?」と聞いてみた。「うん、主食だからね」と彼は答えた。
◆車中
「ちょっと狭いけど、我慢して欲しい」と彼に言うと、「冬眠中の巣穴よりは広いさw」と、ジョークで受け流してくれた。
「これはなんだい?」と彼は、エアコンの送風口を指さして聞いてきた。
「これはエアコンというものさ」と僕は答えた。
「風が出てるよ…。涼しい…」と彼は言い、顔を近づけ、しばらくその風を鼻先で感じていた。気持ち良さそうだ。
「人間は風も作れるのか…」
…とくまは驚いたように言った。
「温かい風を出す事も、冷たい風を出す事も出来るんだ」と、僕は付け加えた。
「人は夏を冬、冬を夏にも変える事が出来るのですね…」と再び、驚いたような表情を見せる。
しばらくその風を楽しんだ後、くまは軽くくしゃみをした。
僕はちょっとだけ笑い、「ちょっと季節を先取りし過ぎたかもねw」と言い、下げすぎていたエアコンの設定温度を少しだけ上げる事にした。
家まではもう少しだ。
◆家へ着く
家に着き、彼は玄関先にあったくまの木彫りの置物に気づく。サケを口にくわえているくまの木彫りの置物だ。
「これは流行ってるのかい?」と聞いてきた。「たいていの家には必ずあるね」と僕は答えた。
くまは嬉しそうな表情を見せつつも、なんとも収まりの悪そうな照れ笑いを浮かべていた。きっと好きになった女の子の部屋で自分の写真を見つけた時のようなうれしさ(というか照れくささ)に似ているのかもしれない。
「いやぁ光栄だなぁ…」とくまはしきりに照れ始めた。褒められる事に弱いクマとみた。←いや、別に褒めてないが。
「やっぱり僕ら(=くま)というと、サケなのかな?」と彼は聞いてきた。
「うん、だいたいはそうだね」と僕は答えた。
「けっこう木の実とか食べてる事の方が多いんだけどね。実はアリも食うし」とくまは答えた。
そうだ、クマは雑食だった。サケシーズン以外の食生活は実はけっこう地味だったのだ。
僕はこの時、アリを食べている木彫りのくま像を想像してみたが、何となく『拾い食い』みたいでイヤだなぁと思った。くまイメージと違う。アリクイとかぶるし。それに木彫りでアリを表現するのはかなり難易度が高そうだ。ドングリとか木の実系も同様。
そう考えるとやっぱりサケがベストかなぁと思った。クマ=サケ、サケ=クマ。それでいいじゃないか。
僕は食事の支度に取りかかる事に。
食事の支度中、彼にはシャワーを浴びててもらう事にした。
◆シャワー
残念な事に体のサイズ的に、さすがに湯船の中に入る事は出来なかった。そこでシャワーだけ浴びてもらう事にしたのだが、普段滝などに打たれてるくまに取っては、シャワー程度の水量はいささか物足りないようであった。
ただ彼は「大変気持ちがいいよ」と言ってくれた。僕を気遣うように。
「これはなんだい?」彼の指さす先には、シャンプーとボディーソープ。
「それは体と頭を洗う時に使うものだよ」と僕は答え、「左がシャンプーで、 右がボディーソープ。左が頭用で、右が体用だね。」と続けた。
「人間は頭だけ特別なんだ…」と彼は言った。
確かにそうだ。そこだけ一番ふさふさに毛が生えてるし、確かに頭だけ特別扱いされてる。
「長い毛生えてるからね」と、僕は答えた。
「全身毛まみれな僕は、どっちを使えばいいんだろう…」と彼は悩み始めた。
「たぶんシャンプーじゃないかな?」と僕はアドバイスを加える。
「使ってもいいかな?」と、彼。
「もちろんさ」と、僕。
「これは気持ちいい…」
彼はシャンプーを大変に気に入ったようだ。器用に体中に手を回し、全身泡だらけな状態で心地よさそうな笑顔を見せていた。
ただ、背中の傷にちょっとだけ染みると言っていた。
そうだ野生生物。体に傷ぐらいある。
「何で人間は頭の毛だけがあんなに長いんだろう?」と、彼は聞いてきた。
「伸びた毛で釣り糸を作ってたからだよ」と、僕は答えた。
◆タオル
「すごいね、どんどん乾いてゆくよ!」タオルを使った彼の感想は実に素直なものだった。きっと人類が最初にタオルに出会った頃の感想もそのような感じだったのだろう。生まれた時からタオルが存在していた自分らは、知る由もないが。
「草よりも、落ち葉よりも柔らかい。世の中にこんな柔らかいものがあるんだ」と、彼は大変に満足そうだ。
「普段僕らが体を乾かす時は、ブルブルってするんだ。ブルブルって」彼は説明してくれた。
「僕らも昔はそうだったのかもしれないね」僕は答えた。僕らは今、あのブルブルは出来ない。いつから出来なくなったのだろう。
◆食事
くまの方に食事を出すにあたって、自分なりにいろいろと考えてみた。まず、箸やナイフが使えないので、なるべく食べ易いものである事。そして何となくではあるが、普段彼が食べてるものからあまりにも逸脱したものは止めた方がいいのではないかと思った。
僕が最初に出したのは、トーストだ。バターを引いたの。何となくではあるが、彼らが普段口にしている「木の実」の食感に似てるかもしれないし。確か、木の実でパンを作ってる部族もあったような気がする(←確かね)から、大丈夫だと思う。
彼の体のサイズでは食卓の椅子は小さすぎるので、床に直接座っていただいた。そしてその前にテーブルを置き、食事はテーブルの上に置く事にした。
「これは何だい?」彼は聞いてきた。
「トーストと呼ばれているものさ。小麦と呼ばれている植物の実を乾燥させ粉にして、一度水に溶き、こねたものを火で焼いたものさ」と僕は説明した。
「焼くって?」彼は聞く。
「火というもので、熱を与える事さ」僕は答えた。
「火って何?」彼は再び聞く。
そうだった、火を知らないんだ。
見てもらうのが一番だ…と思い、彼に火を見てもらった。コンロに火をつける。
「触ってもいいかな?」と彼が聞いてきたので、「触ったらダメなんだ。"燃える"という状態になってしまうよ。」と僕は答えた。彼の毛に引火したら、体中火だるまになってしまうかもしれない。
「"燃える"って何?」と彼は聞いてきた。
「一瞬赤くなって、最後ぽろぽろの砂みたいになってしまう事サ」僕は答えた。
「僕も砂みたく?」彼は聞く。何だかよく分からないみたいだ。
「そう、砂みたく。」僕は答える。「そして指で触れると痛い。染みるような痛み。火独特の痛みかな?それを"熱い"というんだ」と、僕は説明した。
この場で火について完全に説明するのは無理だから、料理についてだけ的を絞った方が良さそうだ。僕は続けた。
「食べ物に、ほんの少しだけ"燃える"を与えると、すごくおいしくなるんだ。人間の料理はほとんどが"燃える"を与えて作っているものだし」と僕は詳しく説明を加えた。とりあえず "美味しくなる" という事だけがここでは重要な事だ。
彼は、見た事のないもの、聞いた事のない話に、いたく感心しているようだった。
「とりあえず食べてみてください」僕はまず食べてみる事を勧めた。
「それでは、いただかせていただくよ」と彼は言い、皿の上にあるトーストを器用にカプッと口の中に入れた。そしてしばらく咀嚼した後、ごくりと飲み込んだ。
「おいしい。。乾いた落ち葉のように最初はぱりぱりしてるのに、噛むとじんわり、柔らかい香りが口の中に広がる…」彼は満足しているようだった。くまのくせに料理レポーターのような事言うんだなぁと、僕は少し感心した。
「じゃあこれもきっと気に入る筈さ」僕はポテトフライを出した。
「これもおいしい…。肉かいこれは?」
「肉ではないね。」僕は答えた。彼は油の味を肉の味に近いと感じたのかもしれない。考えてみたら山での食事で油を感じるのは肉ぐらいだ。彼が油を感じた時、肉を想像するのは不自然な事ではない。
「何か砂のようにざらざらしたものを感じるんだ。ただ、砂とは違い、味があるよね…」
ああ、塩の事だ。塩を振りかけたんだった。
「それは塩と言うんだよ。海で採れるんだ。」
「海?」当然彼は聞き返す。海の事はたぶん知らない。
「川ってあるだろ?その先は海というものにつながってるのさ。」
「水たまりのようなものかい?」
「そうだね、水たまりだね。だけどすごく大きいんだ。森よりも大きい。全ての川は海という水たまりにつながっているんだ。」
「それは知らなかった。」
「そこの水は川の水と違って、さっき食べた塩の味がするんだ。」僕はここで塩と海の関係を改めて説明をする。
そして彼はこういった。
「塩って血の味に似てる。」
考えもしない意見だった。そして彼の口から「血」という言葉を聞いた時、意識から遠のいていた事実、つまり彼が野生生物であるという事を、僕は一瞬だけ思い出す事になった。
僕らは塩を求める。
彼らは血を求める。
僕らが塩を求める理由は、血を求める彼らと共通の何かがあるのかもしれない。それが何なのかは僕には知る由もないが。
続いてゆで卵を出した。
彼はそれをカラごとバリバリと食べた。
「この方が美味しいから」と彼は言った。
そしてチーズ。
「木の実に味が似てるね。こっちの方が柔らかいけど」と彼は言った。
確かにピーナッツとかと味は似てるのかもしれない。くまがピーナッツを食べる事はまずないと思うけど。
塩ジャケが焼き上がったので、それも食べてもらった。
「トーストみたいだ。いつものサケとはちょっと違うね」と彼は言った。
「これも"燃える"を与えたのかい?」彼は聞く。
「そうだね」僕は答えた。
「これも"塩"の味がするね」と彼は言った。
たいていの肉食動物は獲物を内臓から食べる。腹の皮をえぐり、腸を引き出し、血にまみれた臓物を啜る。僕らも昔はそうだった筈。今、我々一般的な人間の感覚では、その行為に対して生理的な嫌悪感を感じる。たいていの人がそうだ。
理由は何故だ?分からない。
少なくとも "肉を食べる" という選択を生命維持の為行った時点で、「血」からは逃れられない筈。
しかし我々は、血に触れない。巧妙に隠されている。スーパーで買った肉のトレイに多少の血が残ってる程度だ。
しかしどこかで血は流れている。別の場所で流れているだけだ。
その生命の根元から抜け出しきれないものとして、つまり血の代替えとして、「塩」というものを本能的に求めるのかもしれない。考え過ぎか?
「こんなものもあるんだ」と僕は彼の前でポテトチップスの袋を開けて、数枚を皿の上に開けた。
袋を見た彼は、あれ?という表情を見せた。この袋を見た事があるのかもしれない。森の中とかで。ゴミとして。
「それでは失礼するよ…」と彼は言い、皿の上のポテトチップスを数枚口の中に入れた。食べにくそうだった。
しばらくはむはむと口で噛んだ後、「固い葉っぱみたい…。口の中がちょっと痛いや…」と彼は言った。ポテトチップスは食べるのにちょっとコツがいるからね。僕も小さい頃、ポテトチップスを上手くかみ砕けなくて、口の中をちょっと切ってしまった事があったっけ。
彼は複雑な表情、つまりちょっと "苦笑い" のような表情を見せていたところを見ると、ポテトチップスは口には合わなかったみたいだ。確かにそうだね。ポテトチップスを好むペットとか聞いた事ないし、何しろ固いし。
僕は口直しという意味を込めて、チョコレートを出した。板チョコをそのまま割らずに皿に置いて出した。その方が食べやすいと思ったから。
彼は幸せそうに、ペロペロと皿の上に置いたままなめ、「これは美味しい!すごく美味しい!」と言った。
「甘いのに木の実のような味もするよ!」と彼は言った。今日食べてもらったものの中で一番のお気に入りのようだ。
"木の実のよう" …という点は、カカオの味に反応してるのではないかと思われた。カカオの多少の "苦み" が、普段彼が食べている木の実の "渋み" に近いのかもしれないと思った。そしてミルクの香り。
僕は続いて「フルーツゼリー」も出したが、彼はチョコの方がお気に入りのようだった。
「これはどこで採れるものなのかい?」と彼はチョコを食べながら聞いてきた。
カカオは確かアフリカだ。「アフリカという土地で採れるのさ」と僕は答えた。
「アフリカって?」彼は聞いてきた。
「ここから遠い場所にある土地の事さ」僕は答える。
「そんな遠いい場所からどうやってここに持ってくるの?」と彼は聞いてきた。
僕はちょっと考えた。正確には知らない。どうやって持ってくるんだろう?船や車(トラック?)だろうか?
僕はそのまま答える事にした。
「さっき乗った車とかあるだろ?車で運ぶ場合や、あと水の上を走れる車もあるんだ。船というんだけど、それで運ぶ場合もある。とにかくいろんなものを使って、ここまで運んでくるのさ」と僕は答えた。
彼はふーんという表情を見せ、「やっぱり人間ってすごいね」と彼は答えた。普段僕らはほとんど意識する事のない"当たり前"の日常は、魔法のような奇跡によって成り立っているのかもしれないと、僕は思った。彼ら野生生物からみれば、想像もつかない事をやってのけ、それに囲まれて日々生活しているのだと。
「僕はもうおなかいっぱいになったよ」と彼は言った。意外と小食だなぁ(クマなのに)と思った。
「そろそろ森に帰ることにするよ。今日はありがとう!」と彼は続けた。
僕は彼に、何かおみやげを渡したいと思った。そこで考えたのは「毛布」だ。犬小屋に毛布を敷くという話は聞いた事あるし、冬眠の時とかに絶対に役立つ筈だ。彼が奥さんを見つけて子供が生まれた時とかも役に立つかもしれない。
僕は彼に毛布を触ってもらった。「これはすばらしい…。母親のおなかみたいだ!」と彼は言い、毛布をほほにあて、すりすりとその感触を楽しみ始めた。「それは君にあげるよ。僕からの贈り物だ。今日来てくれたお礼にね」と僕は言った。
「ありがとう!すごくありがとう!」と彼はたいへんに喜んでくれた。
僕は車で彼の森まで送っていく事にした。もう夜遅くなっていた。
僕は車を止め、森の奥まで彼を送っていった。最初に彼に会った場所だ。月明かりは思ったよりも明るく、途中歩くには困らなかった。
そこで僕は彼と別れた。「また遊びに行っていいかな?」彼は聞く。
「もちろんさ」僕は答える。
僕は車に戻り、エンジンをかけようとした時に、彼が毛布を忘れてしまっていた事に気づいた。僕は森を引き返す事にした。毛布を持って。まだ近くにいると思うし。
彼に最初に会った場所に僕が戻った時、彼の姿はそこには無かった。
僕はそこに毛布だけを置いて帰ろうと思った。もう彼も寝てるかもしれないし、翌日きっとここに置いた毛布に気づくことだろう。
その時、風が吹き、枯れ葉が宙に舞った。
地面のくぼみの中から、枯れ葉に半分うまった "何か" が見えた。
彼だ。
彼はそこに倒れていた。
彼は死んでいた。
枯れ葉の川の中に体の半分だけ沈めているような恰好だった。
背中には血が流れた跡が幾筋か残っていた。
銃で撃たれた跡のように思えた。少なくとも爪や歯形ではない。
その枯れ葉の堆積の度合いから考えて、僕が車に戻っている間に撃たれて死んだとは思えなかった。数日経っているようだ。
夜に猟をする人間もいないし、少なくとも銃声は聞こえなかった。山の中での2km程度なら僕のところまで音は通る筈だ。
僕が彼と会った時、彼は既に死んでいたという事になる。
僕は夢でも見てたのだろうか?
枯れ葉に混じり、いくつかのゴミも混ざっていた。そこにはポテトチップスの袋もあった。
彼はここで人間の生活に思いを馳せ、人間がどのような生活をしているのかに興味を持ったのかもしれない。自分の命を絶ったのが、他ならぬ "人間" であるにも関わらず…だ。
僕はその傷口に、そっと毛布をかけた。彼が母親のおなかに似ていると毛布の事を形容した事を、少しだけ思い出した。
そして「またおいで」と声をかけ、僕はその場をはなれた。
風はいつのまにか止んでいた。
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