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記録された記憶の果てに~追~  作者: そら
第一章 ナクシモノ
1/1

忘却の果て

お楽しみいただければ幸いです。

 恐らく殆どの人間は、寝起きに弱い。

ある者は気合いを入れて体を起こし、腕を天井目掛けて伸びをして、目を擦りながら立ち上がる。

またある者は、時間があるからと、二度寝を貪る。もしかしたら、布団を巻きつけながら身体を起こす人もいるのかもしれない。


 ?年?月?日

 『彼』は、目を覚ます。

伸びをするでもなく、例えるならば『無機質』に起き上がる。

 そして彼は、部屋の中を見て、次に自分の身体を見やる。

ボロボロになったズボン。泥だらけのシャツ。ボサボサの髪に、片方しか履いてない靴は破れており、もはや靴としての機能を失っているようにも思える。

 立ち上がり、空を見上げる。天井は崩れて(と言うよりは、何かに抉られたようにすっぽりと消滅していた)いて、部屋の中には日の光が直接差し込んでいる。

おもむろに歩き出して冷蔵庫を開け中身を確認する。が、ものの見事に何も無く、


 吹き抜けになった壁へと歩みだす。そこから見える光景は、この家と同じく、【何か】によって抉り取られた跡が至る所にあった。


「…………」


 無言で辺りを見渡す。何処(どこ)彼処(かしこ)も全く見覚えが無かった。そもそも、自分が一体何者なのかすらも記憶がない。


 ふと視線を落とすと、風にひらひらと揺れるものが目に映った。

女性物の水色のリボンだった。手に取ってみる。


「……! 俺はこれを、知ってる……?」


 記憶はない。しかし、確信にも似た強い予感が、このリボンと、持ち主を知っているような感覚を覚える。

ふと、ポケットに何かが入っている違和感を感じて、それを取り出す。少しヨレヨレになった写真だ。

そこには、海と丸みを帯びたフォルムと白と黒のコントラストが印象的な灯台が写されていた。

しかしやはり、そこに関する記憶はなかった。


「……これからどうしよう」


 再び辺りを見渡してみる。民家や車、コンビニやオフィスビル等が、この家と同じようにいたる所が抉られていた。


「誰か、誰かいませんか? 誰か、返事をしてくださーい!!」


 歩きながら、大きな声を出して問い掛けるも、返事が返ってくることはなかった。

辺りに人の気配は一切なく、車も走っていない。しかし、所々にそこに人間が暮らしていた形跡は残されていた。


 そこで、今自分がとるべき行動を考える。

まずはここがどこで、今日が何年の何月何日なのか。この世界で、何が起きたのか。

そして生きるための食糧の確保。自分の他の生きている人を探す。それから――――


「このリボンの所有者と、この写真の場所、かな」


 気づけば握りしめていたリボンを見つめて、『彼』は小さくうなずいた。

なんとなく、そのリボンを腕に巻き付けてキツく結んでみた。解けて落ちることは無いだろう。


「……行こう」


 歩き出してすぐ、道の傍らにコンビニエンスストアを見つけ、中に入る。

「誰かいませんか?」と声を上げるが、店内は静まり返っていてやはり、無人であった。

 店内を見回す。ふと、入り口の横に掛けられている新聞を手に取り目をやる。そこには【2030年7月20日】と表記されていた。


「見出しに気になる点は、特には無い……か」


 芸能人のスキャンダルや競馬の予想などが、所狭しと綴られている。それはつまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事に他ならなかった。


 そして、もう一つ。ここの電気は生きていた。それに気づいた『彼』は、レジ裏へと走り、従業員用の事務所へと侵入してパソコンのモニターを見る。


「…………っ!!」


 モニターの右下には【2030/07/21】と表示されており、『彼』は正確な日付を知ることに成功した。


「たったの一日で、世界から人がいなくなる事なんて、あるのかな?」


 今更ながら、これは夢なのではないかと思い、手をつねろうとした。


「……えっ!?」


 こちらも今更だが、『彼』の右手には、親指、人差し指、中指が無かった。怪我と言うにはあまりにも不自然で、断面から血が流れ出る事もなく、骨と肉が見えているのだ。


「なんだよ……これ」


 恐る恐る、左手で断面に触れる。ぬるりとした感触が指先に伝わる。血の感触だ。痛みは無い。


「っ!?」


 慌てて店内であるものを探す。


(あるはずだ! 探せ! ――見つけた!!)


 手に取ったものはカッターナイフ。中身を取り出し、ぢぎぢぎっと刃を出し、指先に刃を滑らせると、一瞬背筋が跳ねる。痛みと共に真っ赤な血液が床へ滴り落ちていく。


(やはりこの右手は異常だ。左手には痛みがある。血も流れてる。これは夢なんかじゃ、ない!!)


 自分の身体にいったい何が起きたのか。なぜ一日で人が消えたのか。なぜ自分だけが生きているのか。考えれば考える程に、『彼』の思考は混乱する。


「ふうぅぅ」


 気を落ち着けるため、無理矢理に深呼吸する。そして、もう一度辺りを見渡す。


「……とりあえず、何か食べ物をいただいておこう。このまま死んで、たまるか!」


 不思議と、空腹は感じなかったが、生きる意志に縋るように『彼』は食料を拝借し、胃に詰め込んだ。

昔、実際に「起きたら誰も居ない世界になってたら」なんて妄想をしたことがあります。

その世界では、いったい自分はどう行動するのか。考えても考えても答えが出なかったことを覚えています。

何をすれば生きられるのか。それとも生きようとすら思わないのか。


皆さんは、どう思いますか?

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