09-03-20
大いなる揺りかごに揺られている気分だった。酒が抜けていない訳じゃない。乗っている船が海原を加速していたのだ。一番安いチケットに当てがわれた寝室、その窓際のベッドの仕切りを開き、身体を起こして見ればもう光が差し込んで部屋中を照らしていた。そういえば、先程も薄らとモーニングタイム終了のアナウンスを聞いた気がする。
用を足した後に、ふと思い立って髪を縛る。不規則に傾く安定しない船内の廊下を急ぎ足で戻って、買い足した食料品と読みかけの小説をレジ袋に入れた。起きているか分からない同乗人にノック二回だけの合図をし、僕は意気揚々とデッキへ足を運ぶ。
青と藍に景色が二分されていた。雲は見渡す限り一つもなく、柵まで歩けば目下にはヘリポートが見える。静かな空と蠢く海が、どちらも大きな質量を以て視界を占める。
この感動は言葉にしなければ、と僕は携帯を取り出し、忘れないうちにメモをする。
「白波を立てながら船が進む。膨大な水量の波が、各々勝手な方向へ向かうようだが、その浮き沈みをよくよく眺めると、律動を揃えて蠢いており、それはまるで一つの巨大な生き物の脈動だった。これが表面上の活動であり、水面下ではどのような潮の流れになっているのか、どんな生物が潜んでいるのか、想像がつかないところに些か恐怖を覚えた。




