アチラのお医者さんと妖刀つかい11
先生は
「――そんな貴重なサカイモノの少女をなぜかむのに?かむのの土地は、もはやあなたがたにとって居やすい場所ではないでしょう?本家に置いておいた方がよいはずだ」
「うちの家にもいろいろありましてね……」
「もめているという当主あらそいですか?」
「うふふ。さすがによくご存知ですわね。……さて、どうでしょう?ただ、あの子は裏家からこちらに預けられた子です」
とぼけたようだが、目がわらっていない。
そのようすを見て、先生は話題を変えた。
「……いま、かむのでアチラモノをねらった切りつけ事件が続発していますが、ご存知でしたか?」
「切りつけ?……いえ、存じませんでした。なにぶん世と離れておりますので世上のことにはうといもので……それがなにか?」
けげんそうな怪心尼だったが
「切り口から見て、闇丑光と思われます」
とのことばには
「丑光!?そんな……まさか『あの子』が?」
袂で口をおさえる。ほんとうにおどろいているように見えた。
「闇丑光は先祖伝来の刀です。もともとは護身用に持たしたものですが……まさか、それで?……いかにアチラモノ相手とはいえ、無益な殺生はゆるされませんわ」
おろついたように言う。
「身を守るためだけにアーティファクトは、強力すぎますよ」
あきれた先生に対して
「あの子は、気の強い子です。あたくしの言うことになど耳をかしません……。むかしからかしこい子なのですが、ときおり急に残忍な気性が出てしまうようでしてね。遊びがてらにアチラモノをなぶったり切り刻んだりする『くせ』がありまして……」
(なにそれ!むちゃくちゃじゃん!ぜったいにジェームスを坂上さんには近づけないぞ!)
「あたくしはなんとかあの子の性格を矯正しようとしたんですが、残念ながらうちの家はむしろそういう荒い気性を良しとする家風ですから、うまくいかずここまで来てしまいました……」
うつむきがちに話す怪心尼は、しかし決然と顔を上げると
「ですが……いえ、だからこそ『洋子』はあたくしが守ります!だれにも手は出させません!」
きっぱりと言った。
「それは、あたくしの仕事だと思っています。たとえ、相手が……うん?」
尼さんの目は赤く光ると、なにかを察知したようだった。
「よけいなものどもが来たようですね」
そのことばどおり、境内から聞こえるのは「ミャーミャー」と、かまびすしい鳴き声だった。




