アチラのお医者さんと妖刀つかい10
「……この呪宝寺というのは、もともとかむのに居をなしていた、ある魔道の家が建立した氏寺です。その家自体はかむのをはなれましたが、この寺はかむのにのこり、縁者が住職を務めるしきたりなのです」
先生のことばにつづけて
怪心尼は
「あたくしがこの寺に入って、もう二〇年以上になります……あら、こんなことを言っては年がわかってしまいますわね」
そう言うと上品に袂で口をかくしてくふふっと、うそ笑んだ。
「本日、わたしが急にうかがったのはこちらであずかっておられるおじょうさんのことです」
「洋子のことですわね、はい」
「坂上……という名字だそうですが、ではあの子はこちらの血縁ではないのですね?」。
「ええ。あの子は赤ん坊の時、わが家が引き取った子です」
怪心尼のことばに、
のんのん先生は顔をしかめて
「『引き取った』ですか……サカイモノの少女を、そう具合よく引きとることなどできないと思いますがね」
すこし皮肉げに言うと
「あら。それについてはあなたが関知なさることではないでしょう、アチラの医師。これはあくまでもコチラの問題ですわ」
きっぱりと言う尼に対して、
先生は
「……そうです。だから、わたしはあなたがたには関わりたくないんです」
ため息まじりに言った。
「ご存知のとおり、われわれ魔道をなす家にとって力を得るためアチラモノと交流することは重要な課題です。しかし魔道の血筋であっても、ほんもののサカイモノは少ない……というよりきわめてまれです」
怪心尼は、ぼくの顔を見ると
「あなたはどうやらとてもすぐれたサカイモノのようね、おぼっちゃん。あたくしにははっきりとは見えませんけど、その肩にいるのはアチラモノでしょう?奥のほうに住んでいるモノのようね。
あたくしたちが見ることができるのは、ごくコチラの際に住むアチラモノだけです。この程度では、とても深いアチラの研究など出来はしない。
ですから、われわれ魔道家がアチラへのインタフェースとして上質なサカイモノを確保しようとするのは、不可欠のことがらです。
洋子は、わが家にとって貴重なサカイモノです」
むずかしい言葉をつかう尼さまだな。
でも、なんだかサカイモノ……坂上さんをただのモノみたいに言うのがいやな感じだ。




