アチラのお医者さんと猫の王17
「彼は、ほんとうに自分が先代王の子だと思っていました。伯爵にそうふきこまれたのです。
すべては伯爵猫が、自分が後ろ盾になった猫を王にするために起こしたことです」
「……ばかな猫だ。もう一度言うが、セバスチャンにはもともと十分な力があった。オレはあいつがマタタビールをつかってるのを知ってたから、それ用の対策をとって勝ったが、ふつうにやっていたら負けていたかもしれない。やつは今ごろ王になって、オレもこんなやっかいをしょわずにすんだのによぉ……」
王のなげきに
先生は
「伯爵は王族猫です。だれよりも兄である先王猫の力を知っていたから、その血統をおそれたのです。だから、セバスチャンの力を信じてあげることができなかった。……自分の血統では、心もとないと思ったのでしょう」
「自分の血統?」
「ええ……模様や体格はぜんぜん似ていませんが、まちがいないです。セバスチャンは伯爵の……」
先生が言いかけたとき、
受付の方から「ニャゴニャゴ」とした猫のわめき声がひびいてきた。ヨシノさんの制止も聞かず、診察室に入ってきたのは、伯爵猫だ。
老猫はあいさつもせず、のんのん先生の足元にすがりつくと
「ああ、先生!後生です!どうぞお救いください!」
正体をなくしたように、爪でズボンをひっかいた。
「どうしました?いったい、あわてて……」
「セバスチャンが!私の『息子』が!なにものかにおそわれました!『刀』で切りつけられて!息も絶え絶えで動かすこともできず……」
先生は、みなまで聞かず診療カバンをおっ取ると、診察室を飛びだした。




