アチラのお医者さんと猫の王15
新たな「王」は不快げに鼻を鳴らすと
「ふん!おれはあんなやつを自分の父親とはみとめてないぞ!あいつはオレの母親をいやしい野良猫と見て、家族としてみとめなかった」
そうか!それでハインリッヒの瞳に王家猫のあかしである輝星紋がうかんだんだな。
「おれはオッドアイで左目にしか輝星紋がないからな。あいつの子だと思われると不愉快だから、ふだんは目を閉じてる……」
片目を閉じつづけるって、器用な猫だな。ぼくはウインクもうまくできないのに。
「――しかし心外だ。気ままな野良であるこのオレが『王』にならなきゃならんとはな。すべて、この医者がよけいなことを言いに来やがったせいだ」
にやにやする先生をにらみつける猫。
わけがわからない。
「どういうこと?セバスチャンの邪魔をするために、あなたが野良猫たちをつかって診療所を襲撃させたんじゃないの?」
思わずぼくがたずねると
「オレがそんなことをするわけがないだろう?手下どもにも、王選にはいっさい手を出すなと言っていた」
えっ?どういうこと?
のんのん先生がコーヒーを飲みながら説明を始めた。
「――きのう診療所を荒らした猫たちは、ハインリッヒの手下じゃありません。からだと毛並みをきたなくして野良っぽくよそおっていましたが、あれらは飼い猫です」
「えっ?」
「野良猫と飼い猫では持っている雰囲気がちがうんですよ。特に、顔にちがいがよく出ます。野良猫にくらべて飼い猫の顔は横に広くなるんです。それに、猫は野良であってもふだんから自分で体をなめて毛づくろいしてますから、見た目がきたないというのは不自然なことなんですよ」
「飼い猫は、のさっと生きてやがるから、まのびした顔してやがる。それに頭も足りねえな」
ハインリッヒはわらった。
「あれは、伯爵の配下の猫だったんです。つまり『自作自演の襲撃』ですね。闖入した猫にわたしたちの目をひきつけているあいだに、伯爵が薬品棚からマタタビールを盗んだのです。腎臓薬のそばにマタタビールがあるのを、彼は前から見て知っていましたから」
「なんでそんなことを?」
「それは、伯爵猫が知っていたからです。もし先代王の子であるハインリッヒが王選に参加したら、王の子『ではない』セバスチャンにはとても勝ち目がないことを」
――えっ?そうなの?




