アチラのお医者さんと猫の王11
診療所への帰り道、先生は歩きながらつぶやいた。
「さて、どうなりますかねぇ……」
野良猫がついてこないかビクビクしながら、ぼくはわからなかったことについてたずねた。
「マタタビールってなんですか?」
「……猫の強壮薬です。特に化け猫のたぐいが用いると、短い時間ですがその魔力が向上します」
「じゃあ、それをぬすんだのは……」
「ええ、猫の王筋の力に対抗するためです。一種のドーピングですから、王選でつかうのはまずいでしょうがね」
ハインリッヒは野良猫をつかってそんなものまでぬすんでいたのか。そのクスリをつかってセバスチャンを倒し、自分が王になろうということか?
「さて、今晩の集会はどうなることやら……」
「先生は、その猫の集会に行くんですか?」
「ええ。顔を出すつもりです。どうせケガ猫が出ますからね」
先生のことばに
「……ぼくも行ってみたいけど」
と言ってみたが、
あっさり却下された。
「あなたはだめです。なにせ猫の集会が開かれるのは深夜のことです。こどもは寝ている時間です」
つまんないの。
「まあ、明日ウチにいらっしゃい。結果がどうなったか報告してあげますよ」
そう言って診療所にもどると、そこには買い物袋をかかえたヨシノさんがいた。
「……先生、このありさまはどういうわけですか?」
ほおがピクピク、首がパカパカ、いまにも飛び出しそうだ。
「い、いえ。これはその……窓を開けていたら猫たちがかってにとびこんできて……」
あわてて背筋をのばして言い訳する先生に、
しかし
「また窓を開けっぱなしにしていたんですか?あのカラス女がかってに入ってくることがあるから、そんなことがないように閉めておいてくださいと、あたしは言いましたよね。なんですか、それともあのカラスをこっそり引きこむ気だったんですか?」
「引きこむって、こどもの前でそんな言い方……」
しどろもどろになる先生を見るにたえず
「じゃ、じゃあ先生、それにヨシノさん、ぼくたちは帰ります。さようなら」
ジェームスとぼくは家にかえった。




