アチラのお医者さんと猫の王6
「……そうですか」
残念そうな伯爵に対して、
セバスチャンはいらだちげに
「叔父上、なにもこのようなものの力を借りずとも、私は自分の力で王位を得られましょうぞ!」
「そう、おっしゃいますな。あなたには力はありますが、それだけで王位が維持できる保証はありませんぞ。猫のあいだにでも、政治やかけひきというものは存在します。すこしでも味方を増やしておくことが肝心なのです……しかし、のんのん先生がこうおっしゃるからにはしかたありますまい。よき関係は保つということはおねがいいたしますよ」
「ええ、それは当然です」
「お薬をいただいてもどることにいたしましょう……」
「ええ、おわたしします」
そう言うと、先生は立ちあがり医療棚をあけた――そのとき
「――うん?なんですか?あなたがたは?」
見ると、先生が開けっぱなしにしている診察室の窓から六つの光るものがのぞいている。
それは、見るからにガラのわるい、うすよごれた猫三匹の目だった。
猫たちは先生にこたえることもなく
「ニャゴニャゴ、ニャガァッ!!」
入りこむと、問答無用でセバスチャン猫めがけておそいかかった。
それに対して
「なにをする!?下郎が!」
気高き若猫は、たじろぐこともなく
「ニャゴゥッ!!」
と、一鳴きすると毛を逆立てむかえうった。
瞳の輝星紋がきらめくと、毛全体にぱちぱち電気を帯びて、ピンと上げた長い尻尾が……
(えっ!?ふたつに分かれた?)
そして、おそいくる猫を噛んでは投げ、噛んでは投げ……をくりかえす。
「あらあらあら……」
そのぐちゃぐちゃなようすを診療所のあるじはなにもせず、ぼうぜんと見ているだけだった。
そして、しばらくすると
「ニャゴアッ!」
賊猫たちはなにもできないまま窓から逃げかえった。
それは、あっという間の出来事だった。
「なんですか!?いまのは」
おもわずあげたぼくの声に、
こたえたのは伯爵だった。
「野良猫どもです!セバスチャンさまが王にならぬよう、集会の前に襲撃してきよったのです。正当な決闘では勝てぬとわかっているから多数で襲撃するとは、なんと卑劣な恥知らずどもめが!――セバスチャンさま、おけがはありませぬか?」
黄金猫は、余裕しゃくしゃくで立てた毛と二股のしっぽをおさめると
「心配はいらぬ。それより叔父上こそ大丈夫か?」
気配りを見せた。




