アチラのお医者さんと猫の王5
「たいていは、実力不足のものたちですがな。そういったものは、王選の前にわれらが一党によって追っぱらわれております。王選に参加する資格すらない。
しかし、やっかいなものどももおります。特にかむのに住まう『野良猫』はそこそこ力があるだけやっかいです。彼らは王制そのものの打破を目論んでおります。『権力を民のもとにもどせ!』などとスローガンをかかげてね……」
伯爵はいかにもいまいましげに顔をしかめると、語気をあらげて
「たわけたことを!王なくしてかむのの猫の社会の安定はあり得ぬわ!そして、その王をつとめることができるのは、わが血統……王家の猫のみです!」
ふだんはたしなみぶかいのであろう老猫は、声を荒げたことを恥じ入ったように目をしばたたかせると
「興奮しすぎましたな。私は兄とちがって王家の猫らしい力を何も持ちませんでした。しかし、だからこそ強かった兄・先王の血への畏敬があるのです」
伯爵のことばに、先生は
「たしかに先代の王は強力な方でしたね。……そして、その力に痛めつけられた猫もいる」
「先生、王のやりかたに不満でも?」
伯爵猫のするどい問いに、
のんのん先生は
「いえ、わたしはただの医者です。猫社会に口を出す気はありません。わたしは先代の王のかかりつけ医でしたが、一方、その王に傷つけられた猫の治療もしました。それだけです。
それに、だれがなるにせよ王が決まることにはわたしも賛成です。さもないと、猫の社会に混乱が生じますからね……」
先生はそこまで言うと、ふしんげに
「あなたの考えはわかりましたが、それで、なぜ今わたしのもとに?」
伯爵は、うやうやしげに甥猫を引きたてると
「この土地で、いまだこのセバスチャンさまは知られておりません。それで先代王の主治医でもあったのんのん先生に、彼の後見人になっていただけないかと思ってまいったのです」
低頭する伯爵の申し出に、
しかし先生は
「それは残念ながらお断りします。わたしはただの医者です。どんなアチラモノに対しても同じように応対せねばなりません。なにかしらの一派に肩入れすることはできません。――それは、あなたがよくご存知でしょう?」
めずらしく、きっぱりと言った。




