アチラのお医者さんと猫の王4
「ああ、そう言えば次の王を選出する集会は今晩でしたかね?」
先生はそう言うと、わけのわからないぼくに説明してくれた。
「そもそも、猫の世界にはその住む地域ごとにゆるやかな社会があります。そして、その中心には『王』とされる存在がいるのです。とくにこのかむのの『猫の王』は特別な存在で、たいへんな権威と実力を持っています」
「そのとおり。われら猫の秘をあっさり明かすことを見ると、こちらがうわさの先生の助手どのですな」
伯爵は優雅なおじぎをぼくにしてくれた。
若猫は尊大な目を向けただけだ。
「残念ながら、こちらの伯爵の兄上でもあるかむのの『猫の王』は先月亡くなりました。そのため、次の王を決めるための猫たちの集会が今晩もよおされるのです。『猫の王』となれるのは血統・実力ともに抜群なオス猫のみとされています。 ただ、先代王は貴族猫とのあいだに子をなしていないので、今回の集会はもめるのでは心配していたのですが……」
そう若猫に目を向けるのんのん先生に対して、
老猫が
「このセバスチャンさまは、兄が遠出したときに地方の貴族猫とのあいだになした子です。苦労して見つけ出しました」
そのことばに、
先生はうなずくと
「……たしかに、こちらの猫どのは王族の筋ですね。瞳に輝星紋がうかんでいる」
その黄金猫の両瞳には、きらめく星のような紋様がうかんでいた。
伯爵は
「ええ。王族でも、特にこの輝星紋を持つ猫だけが、王になる資格があるとされています。残念ながら私にはそれがありませんでした」
同じ王家のオス猫であっても、輝星紋があるのとないとで地位がまったくちがうらしい。叔父のはずの伯爵は甥っ子猫に、まるで家来のようにしたがっていた。
「私としては、王家の正統なあとつぎたるセバスチャンさまを見つけてほっとしておるのです。しかし、猫の中には王の血族がそのまま王を継ぐことをこころよく思わぬ勢力もあります。新たに王となろうとする輩もいる」
「そうでしょうね。いろいろ言っても、猫の世界では、最後は実力がものを言います。先代王はとても強い猫でした。彼の力に猫たちはしたがっていたようなものです。王の死を知って、われこそはと思う猫たちがかむのに集まるでしょう」
へえ。




