アチラのお医者さんと光るトカゲ7
ぼくは招き猫のキーホルダーを探しながら図書館まで自転車をおして歩いて行った。
結局、とちゅうの道では見つからなかったけど、図書館に着いて司書のおねえさんに聞いたら落とし物として届いていたからよかった。
ぼくはキーホルダーをリュックに取れないようにきちんとつけなおすと、かえり道、せっかくだからきのうジェームスを見つけた場所に寄ってみることにした。
なにかジェームスのことでわかる手がかりがあるかもしれない。
それでまた池のまわりをぐるっと回って公園の茂みの中をのぞいてみたけど、なにもかわってるところはなかった。
「なーんだ、なにもないや」
そう思ってふりかえると、さっきのんのん先生の診療所で会ったばかりの牛みたいな男の人が立っていた。ぼくはびっくりして声も出なかった。
男は気の荒い目でぼくをじろじろ見回すと
「おまえ、さっき、のんのんのところにいたやつだな?人間のくせに俺が見えるんだな」
鼻息あらく
「さてはあのハネツキギンイロトカゲをのんのんのところに連れていった人間っていうのはお前か?余計なことしやがって。コチラモノがアチラのことに首つっこむんじゃねえ」
とツバを飛ばした。
べつに首を突っ込む気はなかった、と言いたいところだったけど、こわくて声も出ない。
「やっぱりあのトカゲはのんのんのところにいるんだな?」
思わずあとずさろうとするぼくを逃がさないようにシャツの襟首をつかむと、乱暴に引っ張った。
すごい力だ。つりさげられちゃう。
「そんな、逃げなくたっていいだろう?せっかく顔見知りになったんだ」
ニヤニヤしながら荒い息を吐く。
ぼくはおもいきって
「たすけて~」
とさけんだ。
むこうの方に犬の散歩をさせているおばさんのすがたが見えたんだ。
声は小っちゃく、かすれかすれだったけど、それでも精一杯の声だった。
あのおばさんじゃちょっと無理でも、だれかほかの人、警察にでもなんでも助けを呼んでもらえると思った。
なのにおばさんったら、こっちの方を見てるはずなのに知らんぷりを決めこんで、のんきに犬のリードを引っぱってる。
「たすけてー!」
と今度はもっと大きな声でさけんでも、やっぱり無視された。
「もっと大声で呼んでくれたっていいぜ」
男はニヤニヤ笑いをうかべながら
「あきらめろ。おれたちとかかわっているときは、お前のすがたもコチラモノには見ることも聞くこともできない。さけぶだけつかれるってもんだ。……そうだ、お前と引き換えにしてあのトカゲを手に入れよう。のんのんもそれなら言うことを聞くだろう」
男はぼくを片手でぶら下げて、勝手に考えごとをブツブツつぶやいた。
「逃げられると面倒だから、足の骨でも一本、折っとくか?」
こわいことを言い出した。
ぼくがのがれようと手と足を必死にじたばたさせると、その手が男の中折れ帽のツバにあたって落ちた。
なんと!その男のもじゃもじゃヘアーからはニョキっと二本、牛みたいなツノが出ていた。
男は平然とした顔で
「それより一口かじっといた方が早いかな?まだ朝飯も食ってないしなあ」
どうしよう、どうしたらいい?アタマが恐怖でまっしろになったそのとき
「ちょっと、あなた!いったいこどもになにしてるの!?」
声を上げてくれた人がいた。
見ると、あの看護士のヨシノさんが白衣に紺のカーディガンをはおったすがたで、こっちにかけよってきてくれている。
ものすごく怒った顔だ。
ただ、もちろん来てくれたのはうれしかったけど、ヨシノさんはけっして大きくない、むしろ華奢な女性だ。
こっちはぶっといプロレスラーみたいな大男なのに、どうやって助けてくれるんだろう?
「うるせえ、このアマ!ひっこんでろ!」
なんてひどい奴だ!女の人の顔をぶった!
……と思ったら、男のふりまわした右腕は宙を切っていた。
あれ?どういうことだ?
なんと、ヨシノさんの首が抜けている!
耳が翼になって首だけがヒラヒラと飛んでいる。
「あなた、なんてことをするのよ!」
ヨシノさん(の首)は直降下して、男のパンチパーマの頭、ツノとツノの間にかぶりついた。
「ぎゃっ!」
男は走りまわってヨシノさん(の首)をひっぺがそうとするが、ヨシノさんはかぶりついたまま離れない。
その間に(胴体の)ヨシノさんがぼくを保護するようにしながら避難させる。
――なんじゃこりゃ?ツノのある男が首だけの女の人に頭をかまれて逃げまどい、ぼくはその残った胴体に誘導されて避難している。
なのに、あのベンチに座ったサラリーマンの男の人はそれに何も気づかず、ケータイで愛想よく電話してるんだ。
まるでぼくまで、もう死んでる幽霊かなにかになっちゃったみたいだ!