アチラのお医者さんと猫の王2
先生はコーヒーを飲みながら興味しんしんで
「――ほお、そんなことがあったんですか?それはおそろしい思いをしましたね、お気の毒に」
「どうしたらいいでしょう?学校とかでもどうしたらいいか……」
ぼくの問いに、
先生はしかし意外とのんびりとした口調で
「……まあ、その少女の言うとおり、こちらから何もしないかぎり警戒しなくともいいんじゃないですか?その『チバシリオオメダマ』らしきアチラモノを切った刀は、おそらくコチラモノにはなんの害もないはずです。
その少女……坂上さんでしたか?彼女があなたを切りつけたりすることはないでしょう」
「そうですか」
先生にそう言われると、すこしはホッとできた。
「ええ。しかし、あなたとその少女……サカイモノがふたりも時を同じくしてこの土地に転校してくるとは奇遇ですね。『かむの』にも時代の変わり目が来ているのかもしれません……」
ぼくにはなんのことを言っているのかわからなかった。とにかく
「坂上さんが、その刀でマヨイガを傷つけたんだと思いますか?」
「そうかもしれません。その少女が持っている刀は、おそらく『アーティファクト』です」
「あぁてぃふぁ……?」
「一言でいえば『古いお宝』ってところですかね。……魔神が封じられているランプだとか、なんでもこちらの問いにこたえてくれる鏡だとか、それで水をくみ飲んだら不死身になる杯だとか……まあ、やっかいなものが多いですね」
そんなおとぎ話に出てくる冗談をされても……と思ったのだけど、先生にはまるでふざけて言っている気配がない。
「しかし、そんなアーティファクトってのは、だいたいどっかの大きなコチラの団体……昔っからある教団とか秘密結社とかがおさえているんで、外に持ち出されることは、まずないんですけどねぇ。
特に日本刀となると、むずかしいはずです。アチラモノを傷つけることができる聖刀・妖刀のたぐいは貴重ですから、よっぽどの大きな組織だとか魔道の名家でないかぎり所蔵していません。そんなものを小学生の少女が持ち歩いているとはおかしすぎる話です。その子は、いったいどこに所属しているんですかね?」
所属?そう言えば、坂上さんもぼくにそんなことを聞いてきたな。
「もともと、サカイモノというのは生まれついてのことが多いです。そしてサカイモノは大変貴重ですから、生まれてすぐにコチラのいろんな団体が察知しておさえにかかります。
ですからサカイモノというのはなんらかの団体に属しているのが多いんですよ。あなたのような後天的に発現するケースは非常にまれです」
ふうん、めずらしいんだね、ぼくって。
だからどうってこともないんだろうけど。




