アチラのお医者さんとおかしな家5
「つかい」につれられて、のんのん先生とぼく、それにジェームスが向かったのは、西のお地蔵さんをこえたあたりだ。
先生によると、かむのは空襲をのがれたので戦前からの古い建物が多くのこっていたのだが、さすがに時代の流れで、それらはどんどんこわされマンションや今風の三階建ての住宅に建て直されていっている。
しかし、そんななか、この西のあたりは土地の権利が複雑に入り組んでいるとかで開発が進まず、昔ながらの平屋の長屋住宅が多く残っているということだった。
そんな、ちっちゃな長屋がならぶ細い路地をまがりながら進むと、方角もなにもわからなくなってしまう。
「そうですね、このあたりはわたしでも迷うんですよ。特に、今からうかがうお宅には、ひとりでたどり着くのは困難です。つかいがいるからいけるようなものです」
ホント、昭和がそのままのこっているような路地だ。――ほら、あれなんかもしかして井戸じゃない?
「そうです。今でもいくつか現役で使われています。野菜とか冷やすのにいいんですよ」
「へえ」
井戸なんて初めて見た。手押しらしいポンプもついてて、ふたの上に猫がまるくなって昼寝している。
「井戸なんて、落ちたらあぶなそうですね」
「……そうです。特に『あなた』は落ちたらだめですよ。いったいどこまで『行って』しまうか、わたしにも想像がつきませんから」
先生が真剣な顔で言うからおかしかった。
「そんな、あんなせまいすきまに落ちたりしませんよ」
「いえ、なにがあるかわかりません。気をつけてください」
そんなことを言われるものだから、ぼくは井戸を見るたびに、少し距離をあけて歩いた。
路地のなかには意外にも、占い館やらたこ焼き屋、イタリアンレストランなんてものまであった。こんなところで商売がやっていけるのがふしぎだった。
「『かくれが』ってやつですよ、このあたりはね……ああ、そんなことを言っているうちに、ほら、あれです。つきました」
「えっ……ここ?」
それはビルとビルにはさまれた小さな一軒家だった。というか、家だったものだ。
こういうのをなんていうか、ぼくはテレビで見て知っている。「廃屋」っていうんだ。
いま日本中で問題になってるやつだ。屋根や壁にはひびが入ってくずれているいるし、草も生え放題だ。
「……やあ、これは。ちょっと見ないあいだにひどい状況になりましたね」
先生はそう言ったけど、これが「ちょっと」のあいだに荒れたものとは思えない。何年間もほったらかしにしていたような荒れ方だ。




