アチラのお医者さんとおかしな家4
(ひょえーっ!同い年の子におどされてしまった!)
ぼくは、なにも言い返すことができず、ただふるえて団地の階段をかけあがった。
女の子相手に男がなに逃げ出してんだ、みっともないって言われるかもしんないけど、ぼくはなんにも気にしない。
だって、ふつうの人には見えないけど、相手は「刃物」を持っているんだよ。
最高にヤバい相手じゃん。
逃げまどっても、なにもはずかしくないと思うんだ。
ぼくはランドセルを家に置くと、ジェームスを抱きかかえて、コーポまぼろしに向かった。
いま、目の前で起こったことをのんのん先生に相談するためだ。
行くとちゅう、あの子が刀をふり回しておそってこないか、何度もまわりをうかがいながら歩いたから首がつかれちゃった。
だからコーポまぼろしの102号室にまで、なにごともなくたどりつき、インタホンごしにヨシノさんの声が聞けたときは、ほっとした。
「――あら、ホウイチくん。ひさしぶりですね」
診療所の受付兼看護士(というよりのんのん先生の世話係)のヨシノさんは、ぼくらをやさしくむかえ入れてくれた。
「よかったですわ。ちょうど今お使いを出そうとしていたんですよ。のんのん先生があなたに会いたがっていました」
「先生が?」
そのままいざなわれて奥に入ると、まっきぃきぃ頭に白衣すがたののんのん先生が診察イスにすわっている。
「やあ、ホウイチくん、それにジェームスくん。いらっしゃい。ちょうどよいところに来てくれました」
先生は、ぼくみたいなこどもにもいつも丁寧なことばづかいで接してくれる。
その態度は、コチラモノやアチラモノに対してもそんなに変わらない。
ぼくはアヤツリツカイの一件があってから、診療所には来てなかったんだけど、いま診察室を見わたすと、そのとき、さんざん散らかっていた部屋の中はすっかりかたづけられていた。おもちゃの城が壁に開けた穴もきれいに埋まっているし、先生じたい小ざっぱりした格好になっている。
アヤツリツカイとのことでは、先生はヨシノさんにこってりしぼられたらしいけど、とりあえず元通りになってなによりだ。
ぼくは、さっそく坂上さんのことを相談したかったんだけど……
「あっ。患者さんですか?それなら……」
患者イスに、顔色の悪いずんぐりむっくりとしたおじさんがすわっていたのだ。
しかし先生は
「いえいえ、こちらはただの『つかい』です。往診の依頼をうけましてね。どうも容態がよくないらしいのですが、はなしを聞くかぎり、わたし一人の手にはあまるようでしてね。それで、あなたにもぜひ往診に同行していただけないかと思っていたところなのです」
「同行」って、そりゃぼくものんのん先生の助手だからいいけどさ。先生の手にあまる……ってのが、いやな予感しかしない。でも
「ヨロシクオネガイシマス、ボッチャン」
と、おじさんに頭を下げられてはしかたない。
坂上さんのことはあとまわしにして、ついていくことにしよう。
「ありがとうございます。では、さっそく行きましょう」
そう言うと先生は白衣をぬいで、大きなリュックサックにハンマーやピッケル、ロープをつめたのをせおった。
それは以前、シロタヌキを救うためにジェームスのおなかの中に入っていった時と同じ装備だ。
「えっ?いまから山に登るんですか?」
「いえ、むかうのは近所の一軒家ですよ。……まあ、これは『備えあれば憂いなし』というやつです。『万が一』の場合にそなえてね」
そう言ってわらう先生だけど、なんで街の中の家に行くのに、たとえ「万が一」でも登山用品なんかがいるのかわからなかった。でも、くわしく聞いても仕方ないんだろう。
なにせ、ここはかむのなのだから。




