アチラのお医者さんとおかしな家1
その日の夕方、ぼく藤川芳一は、クラスメートのコジロウくんやノリスケくんたちといっしょに、小学校から家に帰っていた。
ぼくの肩にはハネツキギンイロトカゲのジェームスがとまっているけど、そのことをコジロウくんたちは気づいていない。なにせジェームスはアチラモノだから、コチラモノには見えないんだよね。
アチラモノとはコチラ(人間世界)と重なり合うようにして生きているふしぎな生きものたちのことで、ふつうの人間には見るどころか、感じることもできない。
ぼくは一月前、この「かむの」の街に引っこし、ジェームスに出会ってからアチラモノが見えるようになっちゃった。
そんな、アチラモノと関わることができるコチラモノ(サカイモノ)って、たいへんなんだよ。なにせアチラモノときたら、なにかというと、ぼくを食べようとするものたちばっかりだからさ。
でも、アチラモノ専門のお医者さん・のんのん先生の助手になったおかげで、ぼくもなんとかこのヘンテコな土地でやっていけている。
出会ったときはひどいケガを負っていたジェームスも、いまはすっかり元気になって、ぼくの家でいっしょにくらしている。おかあさんにもジェームスは見えないから、ぼくが話しかけてるのをひとりごと言っていると思って、けげんな顔をされるんだよなぁ。
そして、それよりもこまるのが、ぼくと一時もはなれたがらないジェームスが、小学校にまでついてくることだった。クラスの子たちには見えないから、かまわないっていえばいいんだけど、ジェームスときたら授業中にもふざけて教室を飛びまわるんだ。
タッチパネルを操作してるリエコ先生の髪の毛をひっぱったりするから、気になって授業に集中できない。声に出して注意することもできないから、まったく、いたずらもののこまったやつだ。
(だから、もしぼくの成績がわるかったとしても、それはジェームスのせい、ということだ。そういうことにしておこう……)
この下校中も、ぼくがコジロウくんたちとおしゃべりして、ジェームスを無視しているのが気に入らず、首すじをかんでくるから、くすぐったくてしょうがない。
ひとりニヤついたりしたら、おかしなやつに思われちゃうから注意が必要だ。
「――おれは『めんたいこ』味だな。おまえはなにがいい?」
「う、うん、そうだね。ぼくは『コーンポタージュ』かな?」
くすぐったいのをこらえているのを知らないノリスケくんに、どの「うまい棒」が好みか答えていると、
コジロウくんが横を指さした。
「――あっ。あれ、坂上だ。ひとりでなにしてんだ?あいつ」




