アチラのお医者さんとブリキのお城10
(そうか。人形だったから、声と表情がみょうに合っていなかったのか)
リスはその黒いまなこをぼくのほうにむけると
「――しかし、まさかあなたのような少年がこの城を開けるとはね。いったいどうやって開けましたか?」
とたずねた。
その見た目のくるくるとした愛らしさと、ことばのするどさがぜんぜんあっていないのがこわい。
「……ど、どうって、ただ『開け』って言っただけです」
ぼくがどぎまぎとこたえると、
リスは一瞬あっけにとられたようだったが、そのあとすぐ、ほほを目いっぱいふくらませると
「チルルルルルル―――――ッ、そうですか!いままであまたのものたちに開けさせようとしてできなかったのが、そんなことで!……そうか、彼は何も凝ったことなどしていなかったんですね。ただボクがむずかしく考えすぎていた!」
さもおかしそうにわらった。リスがわらうところなんてはじめて見た。こんなふうにほっぺをふくらませてしっぽをふるわせえて、よっぽどおかしいんだな。
しかし、ひとくさりわらいおえると
「いや、失礼した、あまりにゆかいなことでしたのでね。――しかし、ホウイチ少年」
アヤツリツカイはまじめな顔になって胸に手を当てると
「ボクはあなたにふかくお礼申し上げます。今後、このアヤツリツカイがあなたに手を出すことは決してありません。のんのん先生についても、今度の件のことは水に流しましょう」
と誓った。
のんのん先生はそれに対して、ただ短く
「たすかります」
とだけ返した。
――えっ?それでおしまい?
もう話がついてしまったらしいふたりに、ぼくはつい
「それだけですか?」
と、つぶやいた。
「もっと……なんていうか話し合いをしないんですか?先生」
「話し合いとは、どういう?」
先生は「はてな?」という表情をしてる。
もおっ。にぶいなあ。
「だから、このリスさんがしてる、アチラモノをだましたり、ものを取ったり、こんなふうに人をおどしたりとか『わるいこと』をしないように、という話はしないんですか?」
「ああ、そういうのですか。……ふ――む」
なぜだか先生はこまった顔で、あごをかいている。
アヤツリツカイはおかしそうに
「ふふふ。やはりサカイモノというのは楽しいものですな。このかむので、のんのん先生をこのようにこまらせるのはあなたぐらいでしょう。
よろしい、こまっている先生の代わりにボクがおこたえしましょう。――まず、あなたはボクがしていることを『わるいこと』とおっしゃいましたが、このアチラの世界ではその『わるい』というのがはっきりしないのです。なにせ、はっきりと法律がある世界ではありませんからな」




