アチラのお医者さんとブリキのお城5
男は机の上に置かれた城に目をやると、のんのん先生にたずねた。
「それで、いかがでしたかな?開けられましたかな?」
「いえ。『わたし』にはできませんでした」
先生は、さもくやしそうに言った。
ほんとうは全然そんなこと思っていないということに気づいているのは、ぼくだけだ。
「ほう。そうですか、それは残念でしたな」
男は、ちっとも残念そうじゃなく言うと、うれしそうに
「あなたが開けられないとなると、賭けはボクのかちですな」
と、つづけた。
――かけ?なにそれ?
先生は、だまって引き出しを開けると、光るちいさなものを机の上においた。それは
「あっ、それウワバミの指輪。『かむの鋼』の」
ぼくが思わずつぶやくと、
男は
「『かむの鋼』?ああ、このあたりではオリハルコンをそう呼ぶそうですな」
オリハルコン!?それって、魔法の金属だよね。ものすごく貴重な。
そんなの、ほんとにあるの!?
ピカピカ光るものが好きなのか、すばやくリスが机にとびのって指輪に近づこうとするのをジェームスがじゃました。
リスがフキゲンそうにキッ、キッとジェームスにほえる。二匹のあいだはなかなか険悪そうだ。
リスを肩の上にもどすと男は
「オリハルコンは失われた金属です。コチラはもちろん、アチラですら、ほとんどのこっていない。その指輪一つにどれだけの価値があるか、はかりしれません」
と言った。
「そういうことには興味が無くてね、よく知りません。ただウワバミから預けられたから持っているだけです」
先生ったら、そんな高価なものをなにげなく引き出しに入れといたりして!
男は机に置かれた指輪をじっと見ると、肩をすくめて
「しかし、この指輪はボクとしては大きな誤算でした。せっかくウワバミとコウモリがもめているあいだに巣から盗み取ろうと思っていたのに、ウワバミの息にあおられて飛んでいったのを、あなたに拾われたんですから」
と、なにげなく言った。
――えっ?
「なにを言うんです。ムラガリチスイコウモリをそそのかして、わたしの持ち物 (タバコ)をぬすんだものに、そんな勝手を言われたくはありませんね」
「そうおっしゃるが、あの計画だてには、大変な時間と手間がかかったんですよ。それは、紫水晶でも入れ墨でもいっしょだ」
――紫水晶?入れ墨?えっ?どういうこと?
「なにを言うんです。どっちもロクなことじゃない」
先生はぶすっとした表情でことばをかえすと、あっけにとられているぼくにむかって言った。
「――こちらが、ムラガリチスイコウモリをだました業者ですよ。それだけじゃありません。シロタヌキたちに指図してハガネアリの紫水晶をぬすませたのも、アオグロネチョネチョからつくった入れ墨をエルフのエアーノスくんに入れた彫師も……すべて、この方です。
つまり、ここのところわたしたちが右往左往させられていた事件を裏からあやつっていた黒幕なのです」




