アチラのお医者さんとブリキのお城1
ぼくがのんのん先生の診療所に行ったら、受付にはだれもいなかった。
「だれかいませんか?」と声をかけると、診察室のほうから「ふぁ〜い」というだらしない声がしたので入ると、いつものとおりジェームスがぼくに飛んでからみついてきた。
机の前ではのんのん先生がひとり、しどけないようすで、いすにこしかけている。
「やあ、ホウイチくん、いらっしゃい」
……みょうだな。
なんだか部屋があれていて、いろんなものが散乱している。こげくさいにおいもするし、まるで、なにものかの襲撃をうけたみたいだ。
しかし、先生は平然と
「今日はヨシノさんがいなくてね、なにもおかまいできないが」
言うと、インスタントのお茶を出してくれた。
「こんなものでわるいね。あのひとは古風だから、わたしがかってに台所に入るのをいやがるんだよ。『男子、厨房に入るべからず』とか言ってね」
「ヨシノさんはどこへ行ったんですか?」
「なに、ちょっとした出張だよ。わたしの知ってる湯治施設にシロタヌキくんをつれだしてもらったんだ。温泉に入ったら彼の調子も良くなるかと思って、二、三日ね」
「二、三日——。よくヨシノさんが行きましたね」
ぼくの知ってるかぎり、ヨシノさんはのんのん先生のそばで働くことを一番大事なこととみなしていて、何日も先生をひとりで置いておくようなひとではない。
「まあ、わたしが無理にお願いしたんですよ。シロタヌキくんがよくないのでね」
「へえ……」
どうもあやしいな。
もしかして先生とヨシノさん、ケンカでもしたのかな?クロハさんと仲良くしてたり、ぼくにタバコを喫ってたことをばらしたから、ヨシノさんがおこって出てったのかもしれない。
見ると、のんのん先生の服は襟のところがよごれてて前の日から着たままっぽいし、表情もどうもつかれた感じで、ぼくと話をしていても心はここにあらずという感じだ。
それと、なにより最初に診察室に入ったときからおかしく思っているのは先生の机の上に置かれたものだ。
そこには仕事場にはそぐわない、小さなおもちゃのお城が置いてあった。




