アチラのお医者さんとアカカガチ12
「やあ。これは『かむの鋼』の指輪ですね」
「かむのこう?」
「むかし、かむので採れたかわった金属です。たしか今はもう採れないんじゃないかな?――ふうん、こんなものをウワバミは持ってたんですね、知らなかった」
「……それって、もしかして高価な金属なんですか?」
「さて……たしかコチラには『無いことになってる』金属なんですよね。だから値段なんてつかないんじゃないですか?――まぁ、せっかくもらったから置いときますけど」
先生はその指輪を、それこそただの部品のねじぐらいの気安さで、机の引き出しにポイと投げ入れた。
ついでに、ぼくは気になっていたことを聞いた。
「――先生はなんで、わざわざあのタバコだけ、あんなゲーム・センターにかくしたんですか?その指輪とか、お酒は診察所にふつうに置くのに」
ぼくの質問に
先生は、なぜか「にやついて」ぼくのうしろを見ると
「……ああ、なにせうちには禁煙中の方がいるんでね。そういうものはやっぱり遠ざけておかないといけないでしょう?」
その視線の先で、につかわしくもなく顔を赤らめているのはヨシノさんだ。
「先生!今ホウイチくんにそんなこと言わなくともいいでしょう。だいいちあたしが喫っていたのは煙管タバコの時代ですよ、心配ありませんから」
へえっ!ヨシノさんがタバコを喫うなんて意外だ。
そういうのを一番きらいそうなのに……そうか!それで先生はヨシノさんが『下』についてくることをゆるさなかったんだ。タバコのにおいをかいでまた喫いたくなったらいけないから。
でも、煙管たばこって、いったいヨシノさんはいつの時代から生きてるんだろう?
思わずぼくは聞きそうになってしまったが、女性に年齢をたずねるなんて、そんな失礼で危険なまねはできない。
なにも言わず、先生といっしょにだまってマカダミアナッツ・チョコをかじった。




