アチラのお医者さんとプロレスリング10
どういうこと?
ぼくのいぶかしみに、のんのん先生がわきから
「――レディ・ミツコは、所有欲が強いんです。一度奴隷にしたものは、いつまでも自分の手元に置いておきたい。そのため、色々な術を使います。
特に、あの魔女は「媚」や「魅」の術に長けています。女性としての美しさや色香によって、男を誑すのが得意なんです。最初は、はやくつとめを終えて自由になりたいと願っている債務者たちも、いつのまにか彼女の魅力にとらわれて、自ら奴隷状態でいることを承知するようになります。そういう力を、彼女は持っているんです」
怖気をふるうように言う。
『ビ』や『ミ』ねぇ……まあ人の趣味は色々だからあんまり言えないけど、あんな怖げなおねえさま、ぼくはちょっとね……。
あのひと、ちょっとよくわからない感じなんだよな。奥がよく見えないっていうか。得体がしれない感じで、あんまり親しくなりたいと思わなかったんだよね。
「――ああ、あなたには彼女がそう見えますか?さすがですね」
なにが?
「ふだんの彼女は、壁を張って自分の内面を見えないように隠していますから、わかりにくいですが……あなたの言うとおり、彼女は得体のしれぬややこしい存在です。もとの出自は中近東や北アフリカあたりにあるようですが、ひとつにしぼれません。いろんなモノがからまって形をなしています。
それからシルクロードをわたってアジアに来て……中国で旅籠を営んでいたこともあります。泊まり客を驢馬に変えて使ったりしていました」
おそろしいな。
よくわからないけど、ぼくは単純に、見てくれより心がきれいな子のほうが好きだよ。いっしょにいて楽だもの。
「ははは。おとなになってもその物差しでいられるなら、あなたが今後大きく人生をまちがうことはないでしょう」
先生はわらいながらぼくをほめると、ドンキーにも
「あなたもそうでしたね。あなたは彼女の魅力にとらわれなかった」
言った。
「そうだな。会った最初から、おれにはミツコがただの哀れなものにしか見えなかった。まわりに自分のいいなりの男を侍らせて、それがよいことだと思っている。
おれには、その感覚が分からなかった。おれはもともと気ままにしてるのが好きだからな。それをやめてまで、あの女にひれふす気にはならんね」




