アチラのお医者さんとプロレスリング7
(……たいへんだなぁ)
思っていると、そのヨシノさんが今朝がた採ったばかりだというとうもろこしを皮ごとかるく炙って出してくれた。
焦げた皮をむいてひとかみすると、とても甘くてみずみずしい。
「おいしいです……けど、あんなには食べられないですよ」
山積みになったとうもろこしを指さすと、
先生は
「心配せずとも、もうすこししたら食べ尽くすのが来ますよ」
言った。
そしてそのことばのとおり、しばらくするとラフなジャージすがたのドンキーマンがやってきた。
「ほう。南蛮黍か?そりゃいい、好物だ。いや炙らずともよい」
すすめられたとうもろこしを皮ごとかじると、ホンモノのロバよろしくすりつぶす。
「――うまいな。やはり穀物はナマにかぎる」
うへぇ。よく口の中がもちゃくちゃしないな。
山盛りだったとうもろこしがあっというまに、ついてた皮や葉っぱもろとも立派な体躯のなかにおさまった。
(おみやげに持って帰るつもりのぶんまで、なくなっちゃった)
「……診察前のデザートにはなったな」
ジャージを脱ぎながら、おそろしいことを言う。
まったくプロレスラーときたら!
シャツの下にある筋肉は分厚くて、ほんとうにすごい。間近で見ることができて感激だ。
しかし先生は、診察しだすと顔をしかめて
「ありゃまあ。ずいぶん傷めてますね。痛いでしょう?」
たくましい身体には、たしかに無数の傷がある。
それに対して、歴戦のつわものは
「レスラーは、痛いなどと言ってはならんのよ」
かっこよすぎることばをはなつ。
自分でも良いことを言ったと思ったのか、耳もぴくぴく動いているよ……って、あれ?マスクの耳って動くの?精巧すぎない?
ぼくの視線に気づいたドンキーマンが
「おれの耳が気になるか、こぞう?……これは、マスクじゃないぞ。ほんもののロバの皮がおれの顔に貼りついているのさ」
りっぱな歯茎をむき出しにしてわらう。
えっ、どういうこと?
ぼくの問いに、レスラーは
「――おれは、ロバ皮が貼りついて外れぬ呪いを受けた、ただの頓馬な男だよ。ヒヒン」
自らをあざけった。
そんな……呪いだなんて、いったいだれがそんなこと?
「そりゃ、あの社長だ。おれ……いや、おれだけでなくファントムのレスラーは、すべてあの魔女……レディ・ミツコの呪縛に囚われ働かされているものさ」
衝撃的な事実を明かした。




