アチラのお医者さんとアカカガチ11
先生も気にはなったようだったけど、それより先にコウモリ自体のことについて話した。
「――とにかく、乱暴なやり方ですよ。先に住んでいるものがいるところに、強引に住もうとするなんて」
「知らねぇ。おれたち、親切なヤツの言うとおりしただけ」
「まともな不動産業者をわたしが紹介しますから、もう、ウワバミのところに行ったらダメですよ」
コウモリは納得していないようだ。
先生はつづけて
「聞かないんなら、そのネバネバしたものを取りませんよ」
「それは、ごまる」
「じゃあ、聞きなさい」
しばしの沈黙のあと
「……分かっだ」
コウモリたちは提案をしぶしぶ受け入れ、先生にウワバミの粘液を取ってもらった。
コウモリたちが簡易宿泊棚に入ってから、ぼくはふしぎに思って先生に聞いてみた。
「なんであのコウモリたちはその『親切なヤツ』というものにおこらないんでしょう?どう考えたって、いいかげんなことを言ったそいつがわるいじゃないですか。なんでウワバミにおこるんでしょう?」
「彼らは単純な気質なんです。論理的な思考はできません。ウワバミに痛い目にあった、それが強い印象としてのこって、その『親切なヤツ』にだまされたということにまで考えがおよばないんです。そこにつけこまれたのでしょうね」
「その『親切なヤツ』はいったいなにがしたかったんでしょう?」
「さあ、なんでしょうねぇ。とにかく、はためいわくな話です。……どうも最近は妙な事件が多いですね」
先生は、ちょっと思案に入ったのか、ただぼうっとしたいのか、そのあとしばらくなにも言わずに椅子にもたれていた。
ぼくはしんぼうできずに
「今回はなんだか、先生ばっかし損をしているような気がしますね、葉巻を取られたり、お酒をあげなきゃいけなかったり……腹が立つなあ」
「そんなことありませんよ。アカカガチが気をまげて暴れなかったことが一番のさいわいです。大災害になるところでした。今回はそれだけでじゅうぶんです。――そうそう、それにこんなものももらいましたしね」
そう言って先生が机に置いたのは、あの地下鉄で拾って、ウワバミからもらった輪っかだ。
「これって……ただのよごれた部品じゃないんですか?」
「さて。なんでしょうね」
先生はそのきたないわっかを治療用の金属皿の上で器用に洗うと、きれいに布でぬぐった。
なにやら白くピカピカしてる。




