アチラのお医者さんとRPG15
「そして、あの神はその討ち取られる魔王の役割を、みずから受け持ちました」
……そこがよくわからないな。なんで神さまがそんな敵役を受け持たないといけないの?
ぼくの質問に、のんのん先生は口の端を笑み曲げると
「ただ単に、自分もなにかしらの形で人類の発達に関わりたかったんですよ。あの神は、自分の世界の人類……こどもたちとふれあうのが大好きなのです。
ほんとうは、自分の管理する世界に直接的な介入を続けることはほめられたことではありません。ある程度以上は、人類の自主性に任せるのが霊的発展のあるべき形ですし、あの神自体も経験に応じて着くべき地位が変わらなければなりません。
彼のキャリアを考えたら、とうの昔にランク・アップしてないといけないんです。上のほうからも早く昇進するようせっつかれているのに、なかなかしませんね。
『おれは現場が好きなんだ』などと管理職に就くのを拒むベテラン社員みたいなことを言ってます」
最後のたとえはよくわかんないけど……その自分の世界を好きな管理神が、なんでこの世界にいるの?
問うと
「それは、彼がその『勇者と魔王』システムの参考にしたのが、コチラのRPG……Roll Playing Game (ロール・プレイング・ゲーム)だからです。役割を演じて遊ぶRPGのコンセプトが、彼の求めるものにぴったりだったそうです。
彼はRPGの研修のために、異世界の門を通ってこの街に来たんですが、滞在しているうちにコチラの暮らしがすっかり気に入ってね。当初宿泊していた旅館を引きはらい、マンションを購入して移り住んでしまいました」
「それがあの魔王城?」
「ええ。わたしやクマゴロウなどこの街の住民も巻き込んでね。もはやあそこまで行くと、このRPGがほんとうにズントゥ人類の発達のためなのか、それとも自分の楽しみのためにやっているのかわからないですよ」
それはわかる気がする……ぜったいに自分の楽しみのためだよ。さっきも毎年の祭りを楽しみにしてる男の子の顔しちゃってたもの。
「とはいえ、こんなワガママもそろそろ終わりです。いいかげんアセンションしないと降格されかねません。彼も、それはさすがに嫌でしょうから、本当に次が最後でしょうね」
「次はいつ?」
「コチラとアチラ……ズントゥは時間の流れが違いますから。ズントゥの数百年はコチラで一年もなさそうです。また来年くることでしょう」
「そうですか……」
じゃあ、ぼくもまたそのときは賢者の従者役を務めないといけないのかな?
今度は、もうちょっと、ものものしく演じてみよう。
ぼくは参加賞としてもらったメダルをいじりながら、来年の出演にむけての想をねった。




