アチラのお医者さんとRPG8
診療所を出て、ぼくは映画館に向かった。
今日は時代劇映画を観るつもりだ。ぼくはこれでも剣戟にはうるさいんだよ。なにせ、ちょっとした忍者映画に出演歴があるからね。それに、なにより知り合いの女の子にマジ剣士がいるもの。目が肥えている。
(なに観ようかなあ……)
考えながら歩いていると、商店街手前でさっきの勇者の一行に遭遇した。
ぼくは彼らに気づいたけど、むこうはぼくのことなど気にも留めない。
(いちおう賢者の従者Aだったんだけどなぁ……)
まあ彼らからしたら、ぼくなんてモブ住民なのだろう。気にされないのをよいことに、ぼくは素知らぬふりをして彼らに近づき会話を盗み聞きした。
「――よし、みんな。ついにおれたちは魔王の居城にたどり着いた」
ちょっと高級なマンションの前で、勇者がみなに声をかける。
「おれたちには賢者に授かったポーション、そして森の王から授かった聖剣・ドゥラバルニーがある。用意は万端だ」
その手には、さっき診療所に来たときにはもってなかった豪華な剣がある。あれがドゥラバルニーか?……はやいなぁ。ぼくがみつ豆食べてるあいだに、もう手に入れたんだね。
「とはいえ、この決戦でおれたちが全員生き残る保証はない。復活のポーションを使いきることもあるだろう。もしかすると、ひとりも生き残らないかもしれない」
緊張の面持ちだ。
「それでも、おれたちはしなければならない。魔王を倒して世界を救うんだ。みんな最後の力を貸してくれ」
勇者のことばに
「なに今さら水くさいこと言ってるのよ。ヘルベロス」
「おれらの命は、初めからリーダーにあずけとる」
「ふむ、年寄りの最後のご奉公じゃ」
パーティー・メンバーがこたえる。
勇者は感動した面持ちで
「みんな、ありがとう……よし、では行くぞ、最終決戦へ!魔王を倒す!!」
「「「オ――――――ッ!!!」」」
みなで腕を上に突き出すと
「さあ!ダンジョンで手に入れた秘密のことばを打ちこむぞ」
マンションのオートロックに、9・0・3と打ち込む。
秘密のことばっていうか、部屋番号だな。
ピンポ――ン。
「はい、魔王城です」
「勇者だ」
「――いらっしゃいませ。少々おまちください」
自動ドアが開いて、勇者一行はマンション・エントランスに入っていった。
……興味ぶかいが、これまでだな。ぼくがいっしょにマンションの中に入っていくわけにはいかない。
ぼくは魔楽館でポップ・コーン片手に「旗本退屈男」って映画をジェームスといっしょに観た。むかしの俳優さんのお顔は、大きいなぁ。




