アチラのお医者さんとその師匠3の25
つづけて
「だから彼……伽羅が、自分こそ正当な師の後継だと思うのは無理からぬことです。なにせ、そのような設定で作られたのですから」
「じゃあ、なんで先生が医者になったの?」
ぼくがたずねると、
先生はしばらくポップ・コーンを噛みながら宙を見ていたが
「うーん……兄弟子が口走ったように、師匠が嫉妬したとかそういうことではありませんね……」
それを聞いた瞬間、うしろにいたヨシノさんの表情が動いた気がした。
まるで「なんて気が利かないの、この男」と言ってるみたいで、ゾクッとした。
そんな冷たい視線にも気づかない脳天気な先生が、話を進める。
「ただ単に、伽羅では『この街』に医者として認められなかっただけです。アチラの医者は、人間でないといけなかったんですよ。だから、わたしみたいな未熟者がなりました」
コーラを飲むと
「伽羅がそのことでわたしをうらんでいるのは知っていましたが、師匠の残した知識を手に入れるため、この街の防衛……免疫を壊そうとするなんて思いつきもしませんでした。なにせ、まったく的はずれなことですから」
そうだな。ヨシノさんの中にお師匠さんのデータ(?)があるのに、街のシステムを壊してもしょうがない。
「免疫をおかしくしたことで、この街には様々な異常が発生し混乱しましたが、まさかそこで出てきたウイルスに伽羅自身が罹患するとは……因果ですね。自分のことを人間だと思いこまされた式神が、人間の子どもを式神として使った挙げ句、自分がアチラモノの病気にかかるとは……」
重い感じで
「師匠も、たしかに罪作りな気がします。あの方は、伽羅に自分を人間だと錯覚させたまま破門・追放しました。そりゃ、そんな不自然なことをしてはひずみが出ます。少なくとも、そこは放置してはいけなかった。師匠がわかっていてやったとは思いませんが、結果としては残酷な仕打ちになりました」
その言葉を聞くヨシノさんの視線が、どうもそらぞらしい。
(――もしかして、ヨシノさん(っていうか、そのもとの比丘尼)って、こうなることを全部わかってやったんじゃないの?伽羅が言ってたように、単にのんのん先生から親しい兄弟子を遠ざけるために……って、でもまさかそんなおそろしいこと、女の人が企てるかなぁ?)
不審に思ったぼくと目が合ったヨシノさんの顔が、どうにも怖い。
無表情だけど「余計なこと言っちゃだめよ」と言っているみたいで。
もちろん、ぼくは話を変えた。




