アチラのお医者さんとその師匠3の17
言われた兄弟子は
「そうさな。おまえはたしかに俺との契約を果たしてくれたよ、行者。しかし、やはりその式神たち……ルンルンとレンレンを人の世界に戻すのはむずかしいな」
そう言ったとたん、後ろの壁から縄が飛び出して
「「わっ!?」」
ふたごを縛りあげる。
「な、なにをする!?」
行者の叫びに
「そのふたごは、人間の幼子を直接式神とする興味ぶかい検体だったが、さすがに成長とともに自我が発達していく。自分たちのやることに疑問を持ち出していた。それは、使い魔として勝手が悪い……ただの道具に、理性的な自我など不要だ」
「そうだ!だからもう手放しても良いと、協力と引換におまえはわしにこの子らを譲った」
「そうだな。きみが、師匠が施した呪を解除してくれたのは大きかった……それがなければ、俺はこの街に入ることすら出来なかった。だがねぇ……」
兄弟子は口を笑み曲げると
「やはり、そのふたごを譲るのは問題があるな。なにせ、その子らは俺の内情に通じすぎている。情報漏洩を防ぐ観点からも、使用済みの機器はリサイクルに回さず自宅廃棄……滅却しておかねばなるまい」
まるで、ふたごを使い古したハード・ディスクみたいに言う。
「な、なにを言う!人の子をかんたんに滅却など、許されぬ!」
行者の(そこは)まともな意見に、
金髪の麗人は
「……俺は、人間にしてはどうもそのあたりの感覚がわからないんだよねぇ……サイコ・パスってやつかしらん?」
小首をかしげてわらう。
「貴様!さては、初めからわしも謀る気だったな!?」
激高にも
「ふむ。まあ映画の中でいっしょに始末する気ではあったよ。最近は、観客にバッド・エンドも受け入れられてるからな」
「なにを!」
行者が杖をふるって、ふたごたちを救わんとするが……
「無駄だ」
兄弟子が手をふると城の護衛たる白紙衆……いや、かむのの街を守るはずの式神……シロゴヘイたちが不気味に染まったすがたで、わらわらとあふれ出す。
「むぅっ!?これは!?」
兄弟子はカラカラと笑って
「言っただろう。もはやこのシステム……映画は俺の支配下だと。シロゴヘイは染め変えたし、城内の設定も思うがままだ」
指を弾くと、縛られたルンルンレンレンの足元の床に穴が開く。
そこには紅蓮の炎が……。
「「きゃっ!こわい!やめて、あるじ!……たすけて!行者!」」
「ガキども!!」
行者は叫ぶが、イロゴヘイの妨害によって近づくことが出来ない。
「――どうしよう!どうしたら!」
ぼくも、口では言うけど体が動かない。
なぜなら、今のぼくはもはや機敏な少年忍者・トカゲ丸ではなく、ただのどんくさい小学生男子のホウイチだからだ。




