アチラのお医者さんとその師匠3の16
「ハッハッハ。そう怒るな、少年。なにせ俺は、これを手に入れることができて機嫌がいいんだ」
お師匠は白紙鶴利の幽霊……いやただのグラフィック・プログラムを打ち消すと、薬師如来像の前に置かれた巻物を手に取った。
「そんな巻物の、なにが大事なの?」
ぼくが問うと
「いまは映画の世界観に合わせて、巻物に見えるがな。これこそが、のんのんがシステム中枢に隠した、われらが師匠のデータだ」
……?われらが師匠?
「そもそものんのん……もとはただのカバン担ぎとして師匠に拾われたあの愚鈍な男が、なんの補助もなしにアチラの医者という重責を担えるはずがない。師匠の残したなんらかの知識データベースがあるはずだった。
破門され受け継ぐことが出来なかったが、それさえあれば、俺はあんな出来の悪い『弟弟子』どころではない。偉大だった師をも超える史上最高の術者になることが出来る!」
……えっ?えぇっ?
「――あなた、のんのん先生のお師匠さまじゃないの?まさか……兄弟子のほう?」
ぼくのお口あんぐり呆けた顔が、あまりにおかしかったのか大口を開けてカラカラと笑うと
「無論!そうよ!!俺こそが先代『アチラの医者』の一番弟子・伽羅!あの不出来なのんのんは、弟弟子にあたる!
……なぜだか知らぬが、おまえが俺のことを師匠と勘違いしていたので、それに乗らさせてもらった。それにしても、おかしな話だな。たしかに今回、俺はたわむれに髪を師匠に似せていたが、それですでに『亡き』わが師と俺を混同するとは?いったいあのバカは、おまえにどう話をしたのだ?」
……亡きって、死んでるってこと?
なにそれ?おかしすぎるよ!だって、ついこないだその師匠が夢魔の女王の相手をしたって、のんのん先生も言ってたのに!
「そもそも、システム攻略にはデンキチュウを使うつもりだったのが、おまえに吹き飛ばされたおかげで違う手を考えねばならなくなった……まったく、とんでもない子だ。この香料を入手するために、ルンルン・レンレンにはかなり荒い仕事をさせた……」
なんかごちゃごちゃ言ってるけど……それより、どういうこと?
あなたがのんのん先生の『兄弟子』だなんて……だって、あなたはどう見ても女……
そんなぼくたちのやりとりを見かねたように、岩鉄坊……いや行者が叫ぶ。
「そんなことはどうでもよい、術者!このシステムの支配権を得たのなら、約束どおり早くふたごを開放しろ!
おまえがその子らを渡すというから、わしはこの街を敵に回したうえ、こんなくだらぬ余興にまで付き合ったのだぞ!」
なんだ。行者は、最初っから兄弟子とグルだったのか?ひどいなぁ。




