アチラのお医者さんとその師匠3の9
scene? フェイド・イン
アパートの一室。
布団に横たえられた小さな遺体(の面)に、白布がかぶされている。
枕元には、泣きじゃくる母親らしき女。
父親らしき男は、妻(と子)から顔をそむけて、あぐら座り。
「――あんた、だまってないでなにか言いなさいよ!あんたがその御大層な修行とやらをしている間に、コウジは死んだのよ!
なにが『おれの法力でこの子を救ってみせる』よ!あんたがふざけた焚き火をしてる間も、ずっとこの子は苦しんでたのよ!
最期まで『おとうさんはどこ?』って……かわいそうに!死に目にも会わないで、なにが父親よ!この人でなし!
あんたなんか、ひとりでかってにえらい行者にでも何でもなりなさいよ!」
男、まんじりもせずただ虚空を見つめる。フェイド・アウト
scene36……
峠の一本杉前。目を覚ます少年忍者。
「どうした?トカゲ丸」
声をかける岩鉄坊に熊猫坊。
「いや。すこし夢を見ていたらしい……」
異髏紙団の急襲に、ばらばらにはぐれてしまったトカゲ丸たち公儀隠密。
しかし、はぐれる寸前、トカゲ丸の肩にとまるすぐれた小トカゲ・慈英夢巣が、岩鉄坊・熊猫坊に平羅国領内で合流する場所を伝えていた。
そうして、落ち合わせた三人は人知れず一夜を明かしたのだ。
すでに空は白々(しらじら)としはじめている。
トカゲ丸はあらためて立ち上がり
「ふむ……ではあれに見えるが……」
「おうよ。平羅平羅城だ」
この峠からは、平羅平羅城を望むことが出来る。
天守閣の瓦屋根が朝焼けに映えてまぶしい。
少年忍者は目をすがめて
「立派な天守閣でござるな……はて?あれらは何でござろう?」
平羅平羅城とは反対方向。遠景に、櫓らしきものが見える。それも一基でなく、いくつも立っている。
岩鉄坊
「あれらこそ、平羅平羅城の呪いに対抗するため公儀が用意した櫓よ。ひそかに平羅の領内各地に設置され、呪いに対抗する香を焚いて祓っているらしい。われらの援軍だ」
「援軍?そんなものがあったか……それにしても香とは……」
たしかに、櫓からは煙が立っている。なにやら、かわった香りが漂ってくる気もした。
(なんだか、おぼえがある香りだが……はて?どこで嗅いだのやら……)
小首をかしげるトカゲ丸に、岩鉄坊と熊猫坊
「平羅平羅城への侵入は今宵、決行だ。休んで体力を温存しておけ」
「そうそう。少しでも寝て、いい夢を見よう……」
フェイド・アウト




