アチラのお医者さんとその師匠3の7
scene1…… フェイド・イン
月明かりの空。山奥の庵にズーム・イン。ロウソクの明かり。
白髪頭の老人が、閉じた目を開ける。
「来たか、トカゲ丸」
「はっ、お師匠さま」
いつのまにか後ろに控える頭巾すがたの少年忍者。その肩にはトカゲがとまっている。
「わしがおまえを拾い育てて十年……ようやく、おまえにも一人立ちの任務を与えるときが来た」
「ははっ!」
平伏するトカゲ丸に、老師は任務の内容を伝える。
「うむ……いま御公儀が最も頭を悩ませておられるは、平羅紙国のことよ。
今を去ること十年前、かの国では領主であった白紙鶴利が残虐非道・暴虐の限りを尽くしていた。そんな鶴利のふるまいに苦しむ領民たちの意をくんだ家臣・綺羅紙照狩が反旗を翻し、鶴利をその居城・平羅平羅城に討った。その際には、われら公儀隠密も影から照狩の支援をしたものじゃ。
しかし、なんということか!白紙鶴利は伴天連じこみの妖術使いであった。討たれたあともその魂魄は妖怪としてこの世にとどまり、綺羅紙家そして平羅紙国の民に仇をなしておる。これを退治せねば、平羅紙国の領民に平和はない」
トカゲ丸うなずく。
老師
「鶴利の力のもとは、いまや妖怪変化のねぐらと化した平羅平羅城にある妖呪文が記された巻物じゃ。なんとしてもこの巻物を破かねばならんが、わしはもう老齢じゃ。おまえにこの任務を預けることになる。各地に散らばる仲間たちと連絡を取り、協力してことに当たるのだ」
「ハハッ!」
「……もともと、おまえは十年前の平羅平羅城の戦の際にわしが拾った戦争孤児。平羅紙国はおまえにとって故郷にあたる。ふるさとを守るため尽くすが良い」
「ハハァ。ありがたきは、師の恩にございまする」
平伏するトカゲ丸に、老師
「ただ気をつけよ。巻物を狙うはわしらだけではない。特に気をつけねばならんは、平羅紙国に古くから土着しておる忍び集団・異髏紙団の一党よ。その頭目は、黒巻紙と呼ばれる謎の人物で、天下転覆を目論んでおる。また、この者はそなたとも因縁浅から……グフッ!?」
なにごとかと見上げるトカゲ丸の目に映るは、老師の首元にささった吹き矢。
「あっ!……チェィッ!」
少年忍者、天井にクナイを飛ばす。
落ちてきたのは茶色装束の曲者。
だが、他に逃げる曲者の影もある。
「お師匠さま!」




