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あやしの診療所―のんのん先生とぼく―  作者: みどりりゅう


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336/428

アチラのお医者さんとその師匠1の3

 そのお馬さんは、顔が半分ただれて白い骨がふつうにむき出しになっている。

 そんなの、コチラの馬じゃない。アチラモノだ。ってことは、のんのん先生がらみだ。


 ぼくとジェームスがおそるおそる近づくと、お馬さんはぼくの顔をじっと見てから、ほほをすり寄せてきた。

 うん、いい子だ。

 むき出しの骨がちょっと硬いけど、問題ない。ぼくがたてがみをさすっても、いやがる素振りも見せず、さすりやすいようにかしらを下げる。


(はじめてお馬さんを間近で見たけど、大きいものだなぁ)

 ぼくもうれしくなって、彼の垂れ出た左目玉を空いた穴ぽこ(眼窩がんかっていうんだと後で知った)にはめてあげた。


「こっちのほうが、よく見えて具合がいいでしょ」

 言うと、うれしそうに鼻を鳴らす。


(――なんでだろう。初めて会った気がしないよ)

 そうやって、しばらくその子とじゃれていると


「――ホウ。鬼黒おにぐろが人になつくか?」

 コーポから、声がした。


 そこに立っていたのは落ち武者……いや、落ち武者ふうのモノだった。

挿絵(By みてみん)


 馬は半剥けだったけど、こっちの武者の顔面の皮膚はずる剥けで、ほとんど髑髏スケルトンだ。折れた矢が刺さった藍韋縅あいかわおどしよろいに血泥まみれのはかまがものすごく、ほつれた髪の毛……もとどりが頭骨に張り付いているように見える。


 彼は、空洞の眼窩でぼくをにら(んでいるんだろう多分)むと

「ぬしが医者の助手か?……なるほど、鬼黒がなつくとはなものよ。そのこまは、わしにも今だなずききっておるとは言えんのになぁ……。

 鬼黒が満幅まんぷくに心を開くは、わしにその駒をたまわりくださった『あのお方』以外におらぬ。

 ――いやはや、これはいくら医者が期待するなと言うても、期待するわい!ぬしならば、我らが宿願を叶えてくれるやもしれぬ!」


 なんだかかってに興奮して、腰の袋(えびらと言うんだって後で聞いた)をたたいてるよ。


 そのあとは

「とはいえ、いまだ時は来たらず。しかるべき時が来るまで、今しばしの辛抱じゃろうな……なに、千年も待ったのじゃ。今更なにをあわてることがあろう。――よし鬼黒、参るぞ」


 スケルトン武者はスケルトン馬……鬼黒号にまたがると

「さすれば、またお目にかかろう、助手どの!」

 手綱を引いて、パカパカと去っていった。


「ヒヒ――ン!」

 いななきがかわいいよ。


 それを見送ると、ぼくはジェームスと顔を見合わせて

「いったいなんだったんだろうねぇ?なんだか今日は、みょうな人とよく会うなぁ……まあ、これも聞いたらいいや」


 言うと、おんぼろアパートの102号室に入った。


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